自動車大手各社が、期間工等の非正規雇用労働者を無期転換ではなく半年間のクーリング期間で対処する、というニュースが報じられ、波紋を呼んでいます。

2013年に施行された改正労働契約法により、有期雇用の労働者に対しては、5年経過後に本人が希望すれば期間の定めのない無期雇用に転換することが義務付けられていました。無期雇用=正社員というわけではありませんが、雇用の安定性という点では正社員に準じた待遇にしろ、というわけですね。

ところが、法律に「5年経過後に6カ月間だけ間を置けば再び働かせることができる」という抜け穴があったため、半年間のクーリング期間を置くことで自動車大手は無期雇用への転換を回避している、法の趣旨をないがしろにする行為だけしからん、というのが朝日新聞の論調です。

はたして、悪いのは法の抜け穴を突いた大手自動車なんでしょうか。
全員を長期安定雇用なんて出来るわけがないと朝日新聞自身も証明済み

結論から言うと、景気に波がある以上、雇用調整(人を増やしたり減らしたりすること)は企業にとって不可欠であり、「全員を正社員や無期雇用にさせる」というルールがそもそも荒唐無稽だったということになります。たとえ今は余裕があったとしても5年後10年後の保証はないため、会社としては泣く泣く半年間離職させる以外にないのです。「5年ごとに転職か半年間の離職を余儀なくさせられる非正規雇用労働者」にとっても、この“5年ルール”はいい迷惑でしょう。

「正社員こそ正しい働き方なので、みんなを正社員にしてあげよう」という善意がむしろ当事者たちを苦しめるというのは、まさに「地獄への道は善意で舗装されている」を地で行く展開ですね。

余談ですが、冒頭記事にて「企業の脱法行為」を指摘している朝日新聞社も、もちろん企業である以上は雇用調整は必要です。そういえば以前、社内で労働組合を結成しようとした非正規雇用労働者を全員雇い止めにして訴えられたこともありましたね(2005年 ヘラルド朝日問題)。半年間のクーリング期間設置などより、組合潰しの方がはるかに悪質な気がするのは筆者だけでしょうか。

ただし、現状の非正規雇用労働に問題がないとは筆者も考えていません。問題は

・非正規雇用だけが雇用調整の手段として使われている

・(派遣は3年、有期雇用は5年)といった上限期間のため、付加価値の低い業務だけを割り当てられ、賃金格差が大きい

の2点であり、むしろ非正規雇用の上限を撤廃した上で、労働市場流動化によって格差の是正を図るのが本筋でしょう。政府は働き方改革や同一労働同一賃金制といった労働市場改革を、より強力に、身のある形で推進する必要があるでしょう。

https://news.yahoo.co.jp/byline/joshigeyuki/20171106-00077810/