【ワシントン=鳳山太成】米連邦通信委員会(FCC)は21日、通信会社などインターネット接続会社にネット上のコンテンツを平等に扱うよう求める「ネット中立性」の原則を撤廃する方針を発表した。追加料金を払った動画配信業者のコンテンツの通信速度を引き上げるなど、扱いに差をつけるのを認める。接続会社の裁量範囲を広げて収益を高め投資を促す目的だが、不公平な扱いを受ける可能性があるネット企業は反発している。

 FCCのパイ委員長が同日、規制緩和案を委員に提示した。22日に詳細を公表し、12月14日に開く公開会合で委員5人で投票して賛否を決める。パイ氏を含む共和党の委員が5人のうち3人を占めており、今回の提案は通る公算が大きい。

 規制緩和が実現すれば、ネット接続サービスを手がけるAT&Tやコムキャストなど通信・CATV会社はコンテンツの内容に応じ、追加料金を課す代わりに高速通信を提供するなど自在に速度や価格を決められるようになる。

 例えば通信回線に負荷がかかる動画配信サービス会社に利用料を課したり、傘下の企業が運営するサービスへの通信速度を特別に速くしたりするといったことが可能になる。通信会社はコンテンツ配信などへの進出を続けており、こうした企業が競争上有利になる可能性がある。

 ネットの中立性の原則はオバマ前大統領が強く要請し、FCCが2015年に明文化した。インターネットを電気などと同じ「公共財」と定義し、FCCが通信会社を厳しく規制する体制にした。今回の提案では通信会社が消費者に不利益を生じさせるような行為をしていないか、米連邦取引委員会(FTC)が個別に判断する体制に改める。

 トランプ大統領がFCC委員長に指名したパイ氏は声明で、オバマ政権による規制強化が通信会社のインフラ投資を抑えたと指摘し「間違いだった」と批判した。米国では通信量の増大が課題となっており、接続会社は回線の混雑を招くアプリやソフトウエアの速度を遅くしたがっていた。

 通信会社は通信回線の利用料を原資にネットワークの強化や更新に投じることで、高精細で大容量の動画をネットでスムーズに見られるようにしたり、地方にも高速通信網を広げたりできる。通信の業界団体USテレコムは「時代遅れの規制の撤廃は高速ネットワークの拡大につながる」と歓迎する声明を発表した。

 一方、通信回線を使ってサービスを提供する側のネット企業は反対している。グーグルやフェイスブック、アマゾン・ドット・コム、ネットフリックスなどが加盟するインターネット協会は「ネット接続会社はその立場を利用してウェブサイトやアプリを差別してはならない」とネットの中立性の維持を求める声明を発表した。

 通信会社がライバル企業を排除するため高いネットワーク使用料を求めれば、新たなネットサービスに挑む新興企業が育たなくなると懸念する声もある。

配信2017/11/22 10:22
日本経済新聞
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO23785020S7A121C1MM0000/