【上杉謙信が教科書から消える?(写真:首藤光一/AFLO)】
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 高校と大学の教員らで構成する「高大連携歴史教育研究会」(会長=油井大三郎・東大名誉教授)による歴史用語の「精選案」が波紋を広げている。同会は、大学入試や高校の授業が暗記中心になり、歴史の収録用語が膨張傾向にある問題を指摘して、用語を現在の半分程度に減らすよう提言した。日本人なら誰もが知っている偉人も削除候補になり、幕末の英雄・坂本龍馬も対象だ。名だたる戦国武将たちも篩(ふるい)にかけられた。

「謙信が消えるかもしれない……そういう動きがあることは初めて知りました」

 困惑した表情を浮かべるのは、上杉謙信の直系子孫で上杉家17代当主の上杉邦憲氏だ。

「そうですね、謙信を教科書に載せないことについて、文句を言いたいとは思いません。大昔から数えていけば、“偉人”だって膨大な人数になりますしね。ただ、戦国時代は室町幕府の滅亡から始まり、江戸幕府の成立に至るまで、とてもダイナミックに流れていくでしょう。そうした流れを理解するうえで、“川中島の戦い”などは教科書に残してもいいんじゃないかとは感じます」

 今回の精選案では、上杉謙信と川中島で相対した武田信玄も削除候補となっている。ただし、大名としての「武田氏」が今川氏、朝倉氏などとともに教科書に残すべきとされた一方、「上杉氏」はそこからも除外されていた。17代当主にとっては複雑だ。

「『武田氏』が残るなら、『上杉氏』も入れてほしいところではあります(笑い)。武田家は滅んだけど、上杉家は滅んでいないんだから」(邦憲氏)

 たしかに、信玄から家督を継いだ勝頼の代で、甲斐武田氏は滅亡した。ただし、信玄の次男の系統の子孫として、武田家16代当主・邦信氏がいる。武田家は今回の“歴史教科書問題”をどのように考えているのか。

 高齢の当主に代わり、武田家家臣の末裔らで組織される「武田家旧温会」会長の土屋誠司氏が語る。

「歴史の教育は大きな流れを掴むことが大切ですから、細かいところはあまり気にしません。たとえば長篠の戦い(1575年)などは、それまで槍や刀によるものだった合戦が、鉄砲中心になった転換点ですから、残す意味があると思います。一方で、川中島の戦いが載ってなくても、別に構わないのではないか。

 信玄公の名前についてもそうです。教科書に載ろうが載るまいが、各地域には信玄公や武田氏を称える取り組みがあります。そうした行事などを通じて、若い人が関心を持ってくれればそれで良いと考えます」

 武田勝頼が織田・徳川連合軍に敗れた長篠の戦いは残すべきで、信玄の名前の掲載にはこだらない──心なしか余裕が感じられるのは、家としての「武田氏」が掲載すべき用語に残っているからだろうか。

 末裔たちの受け止め方は様々だ。

 今回の提言では他に、江戸中期の幕臣、大名であり、江戸の“名奉行”として知られる大岡忠相も削除候補に挙げられた。時代劇でお馴染みの「大岡越前」も教科書から消えかねないのだ。末裔の大岡秀朗氏にも話を聞いた。

「提言の詳細な内容は存じておりませんが、きちんとした学識経験者の方々の議論から出てきたものだとは思います。ただ、あくまで一般論として感想を申しますと、これまで歴史的偉人と認識され、わが国をつくってきた方々のお名前が教育の現場から消えることについて、寂しさを感じるところはあります。有識者の方々には、さらに議論を尽くした上で、結論を出していただきたいと思います」

NEWSポストセブン 2017.11.29 16:00
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