12/5(火) 7:05配信
毎日新聞

 1951年にできたころの無料低額宿泊所は、仕事にあぶれた日雇い労働者らの仮住まいの役割が期待されていた。経済成長に伴い生活保護制度は充実し、保護費を狙った「貧困ビジネス」の温床になっていった。だが、高齢化を背景に受給者は近年、終戦の混乱期並みに増加。厚生労働省が新制度の検討を始めたのは、高齢者の安住の場が求められているからだ。【西田真季子、桐野耕一】

 「プライベートや自由もなく、まるで島流しの刑だ」。70代の男性は、今年8月までの約2カ月の無料低額宿泊所暮らしを悲しげに振り返る。

 厚労省の指針では原則個室だが、東京都内で民間団体が運営するこの施設は大部屋に2段ベッドがずらりと並び、10〜15人が生活していた。家賃、食費や光熱費のほか、安否確認や生活相談名目で「サービス料」も求められた。毎月の支払いは総額10万円を超え、受給額はほぼ底を突く。生活相談などは受けられなかった。

 男性は経営していた会社が倒産し、生活保護を受給。直後に脳梗塞(こうそく)で倒れ、有料老人ホームに半年ほど入所したが、「介護の必要がなくなった」として退所を迫られた。行き場を失い、自治体の紹介でここにたどり着いた。門限の午後5時に少しでも遅れると職員に怒鳴られた。嫌気がさして福祉事務所に相談し、今は都内のアパートで1人暮らしをしている。

 精神疾患のある40代の男性は9月までの約半年間、都内の別の無料低額宿泊所で生活した。1日1食、6畳の個室で、利用料は月約9万5000円。料金には生活支援のサービス料も入っていたが、支援は何もなかった。

 施設内は壁が薄い上に騒がしい。眠れず病状は悪化した。今は施設を出てインターネットカフェで暮らす。両手を伸ばせず布団もないが、静かなのがうれしい。体調も戻った。

 一方、厚労省が新制度のモデルケースとして視察した施設もある。さいたま市のNPO法人「ほっとポット」は空き家の戸建て民家16軒を使った施設を運営。計69人の高齢者らがグループホームの形態で生活している。社会福祉士の職員らが施設を巡回し、生活相談のほか、医療機関への通院にも同行している。宮澤進代表理事は「利用者は大規模な施設で管理されるのではなく、小規模で家庭的な支援を望んでいる」と語る。

 北九州市のNPO法人「抱樸(ほうぼく)」が運営する施設も服薬管理や買い物などをサポートしている。3階建てで個室が30室あり、高齢や障害で1人暮らしの難しい生活困窮者を受け入れている。

 利用料は家賃、食費、光熱費などを含め月約8万2000円。同市で1人暮らしする60代なら受給額は約10万5000円で、2万円以上が手元に残る。

 奥田知志理事長は「家族と疎遠になった人もおり、施設で行事を催すなどして利用者が孤立しないようにも努めている」と話す。

https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20171205-00000005-mai-soci