ドナルド・トランプ米大統領の元側近、スティーブ・バノン氏は7日、トランプ政権の内情を描いたとして話題の本で引用されている自分の発言について、大統領の長男を「売国的」と呼んだのではないと訂正し、誤解を招いたと謝罪した。

米ジャーナリスト、マイケル・ウォルフ氏の新著「Fire and Fury: Inside the Trump White House(炎と激怒――トランプ政権の内側)」でバノン氏は、トランプ氏の長男、ドナルド・トランプ・ジュニア氏など選対幹部がヒラリー・クリントン氏に不利な情報をめぐりロシア人弁護士らとトランプ・タワーで面会したことについて、「売国的」と発言したと書かれている。

これについてバノン氏は、自分が「売国的」と呼んだのはトランプ・ジュニア氏ではなく、同席していた当時の選対責任者、ポール・マナフォート被告(大統領選とは別件の資金洗浄罪で起訴)のことだと訂正した。

ニュースサイト「Axios」が最初に伝えた声明で、バノン氏はトランプ・ジュニア氏を「愛国者で良い人」だと称えた。「自分の発言はポール・マナフォートについてのものだった。選挙戦のベテランとして、ロシアがどう動くか経験から承知しているはずで」、「(ロシア当局が)いかに欺瞞(ぎまん)的で狡猾で、決して我々の友人ではないことを認識しているべきだった。繰り返すが、私の発言はドン・ジュニアに向けたものではない」と強調した。

話題の内情暴露本は当初、9日の発売を予定していたが、内容の一部が3日に明らかになると、トランプ氏はバノン氏が「正気を失った」と非難。トランプ政権は発売差し止めを請求した。これに対して出版社は逆に発売を5日に前倒しした。

ウォルフ氏が著書で引用するバノン氏の発言は、ロシア人弁護士らと面会したドナルド・ジュニア氏、マナフォート氏、そしてトランプ氏の娘婿、ジャレッド・クシュナー氏の3人全員に向けられているように見える。バノン氏は発言そのものは否定していない。

著書でバノン氏は面会について、「選対の幹部3人が、トランプ・タワー25階の会議室で外国政府と、弁護士なしで会うのは良いアイデアだと判断した。弁護士は1人もいなかった。たとえこれが、売国的で非愛国的で最低最悪だと思わなかったとしても、ちなみに自分はそう思ったわけだが、ただちに連邦捜査局(FBI)に連絡すべきだった」と話した書かれている。

バノン氏はさらに、内容が明らかになってから自分が訂正するまでに5日もかかったことを謝罪し、ウォルフ氏の書く内容は「不正確」だと批判した。

本の内容が明らかになって以来、トランプ氏は昨年夏に首席戦略官の役職を解かれたバノン氏が「仕事を失い、正気も失った」と非難。さらに「雑なスティーブ(sloppy Steve)」とあだ名をつけ、「クビにされて泣き出した」と嘲笑した。

バノン氏が責任者を務める保守派メディア「ブライトバート」の主要出資者、レベッカ・マーサー氏も、異例の公の声明を発表し、バノン氏への出資をやめたと明らかにした。

問われる大統領の精神状態

こうしたなかで「Fire and Fury」はたちまち発売前から、オンライン書店アマゾンの売り上げ1位となり、米国の話題を独占してきた。

著者ウォルフ氏は200人以上を取材したと説明。トランプ大統領就任以降、ホワイトハウスの執務棟「ウェストウィング」内の「ソファにほぼ専属の場所を」確保して、政権を取材したと書いている。本の中でトランプ大統領は、短気で集中力に欠け、本や文章を読もうとせず、政策を理解するつもりがないと描かれている。

さらに著者は、複数の政権幹部が大統領について、知的・精神的に大統領に「ふさわしくない」、「幼稚な」「間抜け」などと呼んでいると書いている。

トランプ氏はこうしたなか、6日には自分について「精神的に安定していて、なんていうか、とても頭がいい」ことが長所で、「とても安定した天才だ」とツイートした。

週末には複数の政権関係者がテレビに次々と出演し、火消しに努めた。中央情報局(CIA)のマイク・ポンペイオ長官はフォックス・ニュースで、「Fire and Fury」の描写は「純粋な妄想の産物」だと一蹴。「大統領はすべてに積極的に関わっている。色々な問題の複雑さを理解しているし、我々CIAに本当にむずかしい質問を投げかけてくる」と述べた。

バノン氏の部下だったスティーブン・ミラー政策顧問はCNNに出演し、トランプ氏を「政治的天才」と呼び、ウォルフ氏を「ごみみたいな本のごみみたいな作家」と罵倒した。

ソース/BBC
http://www.bbc.com/japanese/42600191