■「登山にも救助にも危険が伴う場所」で有料に

 埼玉県は2018年1月1日より、県内の一部山岳において県の防災ヘリコプターによる救助を受けた場合に、手数料を徴収するようになりました。県条例の改正を受けてのものです。

 手数料額は、防災ヘリが救助のために飛行した時間5分につき5000円です。県ウェブサイトでは「過去の平均救助時間は1時間程度」とされており、その場合は6万円になります。対象となるのは、県西部の小鹿野二子山、両神山、甲武信ヶ岳、日和田山、笠取山、雲取山周辺で、たとえば「山頂から水平距離1km」など、特定の範囲内における救助について徴収されます(一部除外、減免規定あり)。

 防災ヘリの一部有料化は、全国でも初めてだといいます。条例改正の背景について、埼玉県消防防災課に聞きました。

――防災ヘリによる山岳救助の有料化は、どのような経緯で決まったのでしょうか?

 2017年2月の県議会において、議員提案によって提出された「埼玉県防災航空隊の緊急運航業務に関する条例」の改正案が可決されたものです。この条例は2010(平成22)年、防災ヘリが救助活動中に墜落し、5人が死亡したことを受けて制定されたものですが、制定当時から附則として、山岳遭難における緊急運航の有料化について検討する旨が書かれていました。

――有料化にはどのような目的があるのでしょうか?

 危険が内在する山について「自己責任」を問い、防災ヘリの受益者負担をお願いするものです。手数料は、実績値から算出された燃料費相当分です。エリアについては、2010(平成22)年の墜落現場となった笠取山(秩父市)を含め、過去の実績から「登山にも救助にも危険が伴う場所」を指定しています。たとえば、小学生がハイキングに行くような場所は対象としていません。

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 この条例改正について紹介している2017年5月13日発行の「埼玉県議会だより」には、「無謀な登山の減少にもつながるよう、本条例の改正案が議員提出され、可決されました」とあります。
 
 県消防防災課によると、「これまでに遭難した人が『無謀な登山』ばかりかといったらそうではありませんが、東京から近いうえ(比較的低高度の)親しみやすい山が多く、『気軽さ』という点は当てはまるかもしれません。埼玉の山を安全に楽しんでいただき、無事に帰っていただきたいという思いから、パンフレットやポスターを通じて安全を啓発するとともに、今回の有料化についても周知しています」と話します。有料化を聞いた登山者からは「登山届をちゃんと出したほうがいいな」「より装備をちゃんとしなくては」といった声があったそうです。

■有料化には賛否両論 山岳県・長野で見送りとなったワケは

 全国の山岳連盟などからなる日本山岳・スポーツクライミング協会(東京都渋谷区)は、山岳救助における防災ヘリの有料化という動きについて、次のように話します。

「背景には、安易に防災ヘリを要請する登山者が増えたことがあります。その抑制につながるという意見がある一方で、有料化という箍(たが)で規制するのか、登山者のモラルを醸成することが先決ではないか、という賛否両論があるのも事実です」(日本山岳・スポーツクライミング協会)

「山岳救助における防災ヘリの有料化は過去にも何度か議論されていますが、見送られています」と話すのは、長野県消防課の担当者です。同県でも2017年3月、県の防災ヘリが訓練中に墜落し、乗組員9人が亡くなっていますが、有料化が見送られている理由について次のように話します。

「防災ヘリは救急車の延長線上に位置するもので、そもそも有料を想定していません。また、警察や自衛隊が防災ヘリを出動させることもあり、そちらは無料ですのでバランスが取れません。そして、遭難した本人ではなく、それを見た他人が救助を要請した場合に、有料だとトラブルにつながるケースがあります。これらの理由から、まずは山岳保険の加入や、安全に対する自己啓発を促すことが先決ということになっています」(長野県消防課)

>>2以降に続く

乗り物ニュース 2018.01.16
https://trafficnews.jp/post/79454