◆男性は絶滅してしまうのか?劣化するY染色体問題に対し二分する科学者の見解

Y染色体は性染色体の一つでありオスのみがもつ染色体である。
いわば男性のシンボルと言えるかもしれない。

Y染色体上には、胚の性別をオスに決定する遺伝子(SRY)があり、オスはX染色体と共にXY、メスはX染色体のみでXXとなる。
Y染色体は徐々に劣化傾向にあり、このままいけば460万年あまりで消えるかもしれない。
男性は絶滅してしまうのか?それとも生き残るのか?

このテーマは遺伝学において盛んに議論が交わされている分野である。
科学者らの見解はどうやら二分しているようだ。

■劣化していくY染色体

女性が健全なX染色体を2つ手にする一方、男性はX染色体1つのほかは、Y染色体しか与えられない。
Y染色体は劣化する。仮にこのまま劣化が続けば、Y染色体は460万年もすれば完全に消えてなくなってしまう。

だが昔からこうした状況にあったわけではない。
1.66億年前、哺乳類のY染色体の”試作品”はX染色体と同じサイズであり、同じ遺伝子を含んでいた。
しかしY染色体には欠陥があった。

他の染色体は各細胞に2つのコピーを持つ、つまり対で存在している。
ところがY染色体の場合は父から息子へと受け継がれるものが1つあるだけだ。
したがってY染色体は世代ごとの組み替えで、異常な突然変異を排除することができない。
それゆえに次第に劣化し、やがてはゲノムから消え去ることになる。

写真:赤い枠で囲んだものがY染色体。X染色体よりかなり小さい
http://livedoor.blogimg.jp/karapaia_zaeega/imgs/9/7/97bba6fc.png

■Y染色体に備わる遺伝子増幅、コピー&ペースト機能

だが、Y染色体には遺伝子の喪失を食い止める素晴らしいブレーキが備わっていることが明らかになっている。
例えば、デンマークで行われた研究では、男性62名のY染色体を解析したところ、大規模な構造再構成によって”遺伝子増幅”を行う傾向が判明した。

これによって遺伝子の複数のコピーを獲得し、精子機能の健全性を保ち、遺伝子の喪失を緩和する。
その研究ではさらに、Y染色体がパリンドローム(前から読んでも後ろから読んでも同じDNAの配列)という特殊な構造を発達させていることも明らかになった。

Y染色体のパリンドローム状配列内には、遺伝子変換イベントが高頻度で起きていることが記録されていた。
これは基本的に「コピー&ペースト」のようなプロセスであり、正常なバックアップコピーをテンプレートとして用いて、破損した遺伝子の修復を行う。

人間以外の動物に目を向けてみると、Y染色体の遺伝子増幅が一般的な原理であることを示す証拠が増え続けている。
増幅された遺伝子は精子の生産に決定的な役割を果たしており、(少なくともげっ歯類では)子孫の性別の割合を調整している。
マウスにおける遺伝子のコピー数のこうした増加は、自然選択の結果であるという証拠も得られている。

■消える・残る。二分する科学者の見解

Y染色体がいずれ消えゆく運命にあるかどうかについて、専門家の意見は二分されている。
残ると考える学者らは、防衛機構がうまく機能しており、Y染色体を救うだろうと主張する。

しかし消える派は、そうした機構はせいぜい崖っぷちでどうにか堪える程度のことで、それも時間の問題であると主張している。
消える派の中心人物である豪ラ・トローブ大学のジェニー・グレイブズは、長期的に見るならY染色体の破滅は運命であると主張する。
予想よりも多少なりとも長くなることがあっても、それは不可避であるという。

彼女は、2016年の論文で、トゲネズミとモグラレミングがY染色体を完全に失っていることを指摘し、Y染色体の遺伝子が喪失・創造のプロセスは必然的に繁殖力の問題につながると論じた。
このことが最終的に完全に新しい種の形成を促すこともありえる。

カラパイア 2018年01月28日
http://karapaia.com/archives/52252910.html

※続きます