2018年2月27日 朝刊

 川崎市は新年度から、たんの吸引など医療的ケアの必要な子どもがいる市立小中学校などに、看護師が常駐できるようにする。現行制度では、看護師の学校巡回は子ども一人につき一週間に最大三時間だが、この上限を撤廃し、子どもに付き添う保護者の負担を軽くする。医療的ケア児が増える中、ケアが必要でもわが子を地域の学校に通わせたくて、付き添いを続けてきた母親の願いが実を結んだ。 (山本哲正)

 市は二〇一八年度予算案に、医療的ケア児を対象とした看護師の学校訪問に関する事業費として、本年度の二・五倍に当たる四千百八十万円を計上。子どもが学校にいる間は、看護師がケアできるようになる。

 現行では、看護師の訪問は週二回一時間半ずつ、または週一回三時間が上限で、その他は保護者が付き添う必要があった。その負担の重さが、地域の学校に医療的ケア児を通わせる壁にもなっていた。

 川崎市が制度拡充に動いたのは、ケアの必要な次女が市立小学校に通う小関かおりさん(49)の切実な願いがきっかけだった。昨年六月に市議会に提出した請願で「医療的ケアの必要な子どもたちが、自分が行きたい、親が行かせたい学校へ、親の付き添いなく、一人で通うことができる選択肢も与えてください」と訴えた。

 小学五年の次女、リナさん(12)にはダウン症と脳性まひがあり、小関さんはリナさんが学校にいる間、校内に待機。リナさんのたんの吸引などを行う。

 夫は入院中で収入がなく、貯金を崩しながらの生活。障害児を育てた経験などを生かして、「障害のある当事者や家族を支える仕事に就きたい」と願っていても、現行では働くことができない、ともつづった。

 昨年十月の市議会で、小関さんの請願は全会一致で趣旨採択された。市教委は「議会の理解で、保護者の負担軽減に踏み出せた」と説明している。

 請願で「私の子どもの後に続く、医療的ケアが必要な子どもたちの未来のためにも」と制度拡充を求めた小関さん。「社会福祉士の資格を生かした仕事に就きたい」と声を弾ませる。

 首都圏の政令市で唯一、看護師を常駐させているのは横浜市。本年度は医療的ケア児一人が通う小学校に看護師を配置した。

 NPO法人医療的ケアネット(京都市)の中畑忠久理事は「課題は継続性。看護師の確保には労働条件や環境の整備も重要だ。責任が看護師一人に集中しないよう、学校全体で支えてほしい」と話している。

<医療的ケア児> 胃ろうからの栄養注入など日常的なケアを必要とする子ども。厚生労働省の2015年度の推計では、19歳以下の医療的ケア児は全国に約1万7000人。10年前の1.8倍に増えた。国は16年度、児童福祉法に支援を明記し、自治体が小中学校に看護師を配置する経費の補助を始めた。

http://www.tokyo-np.co.jp/article/national/list/201802/CK2018022702000128.html