「獺祭」で知られる山口県岩国市周東町の旭酒造と富士通研究所(川崎市)が、酒造りに人工知能(AI)を導入する実証実験に乗り出した。
これまでに醸造した酒の温度や成分などのデータを基に、適切な作業内容を人に提案する仕組み。
蔵人からは「作業が効率化され、人手不足の解消にもつながる」と期待の声が上がっている。

きっかけは、昨年5月、東京都内で開催された研究会だった。
富士通マーケティング戦略本部の担当者が食と農業へのAI活用について講演。
同じく講師として招かれていた旭酒造の桜井博志会長が興味を持ち、終了後に相談を持ちかけた。
今年4月、旭酒造の蔵で、もろみの温度や成分の比重などのデータをAIに蓄積する実験がスタートした。

「このペースだと、数日中には加水や温度を下げるようにAIが判断するでしょうね」。
今月27日、蔵を訪れた富士通研究所の研究員、菊地亮太さん(29)は、データを眺めながら、旭酒造製造部長の西田英隆さん(46)に話しかけた。

実験では、旭酒造が抽出したデータを同研究所に報告。AIが蓄積されたデータと醸造が進む酒のデータを比較して、加水の量や温度管理を判断する。
現在は、AIの判断に全て従うタンクと、その判断を参考にして社員が最終的な作業内容を決定するタンクとに分けて仕込み中だ。7月下旬にはAIを活用した初の「獺祭」が仕上がるという。

旭酒造では杜氏とうじ制度を廃止し、徹底した数値管理で酒を造る。これまでは、温度やアルコール量が味、香りにどう影響するのかなど、分析結果を紙で記録。
膨大な過去のデータを紙の資料から探し出しては、加水の量や温度調整などを決めてきた。

出荷量の増加などに伴い人手不足が続き、若い蔵人も多い。西田さんは「必要なデータを探し出す手間は煩雑。若手に香りや味など感覚的なものを伝えるのも難しい」と打ち明ける。

最先端の技術を取り込む一方で、こうじ造りや洗米などは社員が手作業で行う。
国内外への出荷量が増え続ける中、人とAIの知識と技術を合わせることで、より質の高い酒を安定して供給することが狙いだ。

西田さんは「どんなに技術が進んでも、最後は人の感覚が決め手。AIの助けを得て、社員がより酒造りに専念できれば、技術も高められる」と話している。(山田裕子)

2018年06月30日 07時31分
YOMIURI ONLINE
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