https://www.sankeibiz.jp/business/news/180720/bsg1807200625001-n1.htm

西日本豪雨の影響で道路や鉄道が寸断された広島県呉市では、フェリーが水や生活物資の調達手段として
市民の「命綱」となった。ただ、フェリー業界は交通網の発達や燃料高、船員の高齢化もあって経営は苦しい。
どう存続させるかという課題が浮かび上がった。

広島港行きのフェリーが発着する呉中央桟橋ターミナルは、乗客が連日、乗船券を求めごった返す。
通勤、通学以外に、食品や生活用品を買い出しに行く人が多い。ミネラルウオーター入りの段ボール箱を
抱える人の姿も見られた。呉の実家に非常食や水を届けに来たという広島市の宮谷幸三さん(54)は
「普段は車か電車を使うが、今回はフェリーがあって良かった」と話す。

呉市は7日以降、電車とバスの運休が続き、一時はフェリーが広島市への唯一の交通手段となった。
主要道路の復旧後も混乱が続く陸路に代わり、欠かせない「足」になっている。

運航する瀬戸内海汽船によると、広島−呉航路の利用者は、通常時の100倍に当たる5千人超。
このため定期便に加え、朝夕のラッシュ時は3、4便増やした。担当者は「初のケースで困惑しているが、
広島市への貴重な足として態勢を維持したい」と意気込む。

旅客船の運航事業者で構成する日本旅客船協会によると、業界を取り巻く経営環境は厳しい。
近年は燃料高に加え、船員の高齢化も進む。運航会社の努力で航路を維持しているのが現状で、
大災害が今後起きた時、航路がなくなっている可能性は否定できないという。

名古屋大大学院の加藤博和教授(公共交通政策)は「非常時のためにフェリーを維持しようと思えば、
平時の利用を促したり、公的に支えたりする仕組みが必要」と強調する。
「行政は地域の事情に合わせ、どの交通機関を維持していくのか、市民も交えて議論していかなければならない」