◆恐ろしい日本脳炎が再流行、危ない北海道
〜世界中でウィルスを媒介する蚊が繁殖、自分の身は自分で守れ

■北海道の遅れたワクチン対策

私は、北海道出身の看護師であり、東京都で勤務している。
先日、初めて日本脳炎ワクチンを接種した。

「なぜ、今頃になって日本脳炎ワクチン?」と不思議に思われる方も多いだろう。
実は、私は今まで、日本脳炎ワクチンを接種していなかった。

北海道において、日本脳炎ワクチンが法定接種の対象になったのは2016年だ。
すなわち、北海道出身者のほとんどが、日本脳炎ワクチンを接種していない。
北海道では、ブタから人に日本脳炎ウイルスを媒介するコガタアカイエカが生息していないと考えられていたため、日本脳炎ワクチンが長らく法定接種の対象外だった。

しかし、日本脳炎の流行域でないことを理由に、ワクチンを接種しないという理論は、通用しない。
主な理由は2つある。

まず、グローバル化が進む昨今、生まれ育った地域で生涯を過ごす人は少ない。
地元で生涯を過ごす人でも、旅行や仕事で移動するだろう。

次に、温暖化の影響によって、コガタアカイエカの生息域が広がる可能性がある。
実際に、ある研究は、道南におけるコガタアカイエカの存在を確認した*1。

北海道内の年平均気温は、1990年頃より急速に上昇し始め、1898年から2015年までの100年あたり約1.59度上昇している。
生息域はさらに拡大していくだろう。

■国内における日本脳炎の流行

2017年、国立感染症研究所では、感染症流行予測調査事業において、全国各地のブタ血清中の日本脳炎ウイルスに対する抗体を赤血球凝集抑制法(Hemagglutination inhibition test: HI法)により測定し、日本脳炎ウイルスの蔓延状況および活動状況を調査した。
ブタの日本脳炎に対する抗体保有状況は、2017年の速報(第1報から第12報)によると、一部未調査の地域はあるが、以下の結果であった。

沖縄県0%、鹿児島県0〜30%、宮崎県9〜73%、大分県40〜100%、熊本県0〜73%、長崎県100%、佐賀県100%、福岡県80〜100%、高知県70〜100%。
愛媛県0〜100%、香川県0〜100%、徳島県10〜100%、広島県0〜20%、島根県0〜90%、鳥取県10〜60%、兵庫県0%、滋賀県0〜40%、三重県30〜80%。
愛知県0〜90%、静岡県70〜100%、岐阜県0%、石川県0〜60%、富山県0〜25%、新潟県0%、神奈川県0%、千葉県0〜80%、群馬県・茨城県・福島県・秋田県・宮城県・青森県・北海道0%。

ブタの日本脳炎に対する抗体保有状況は西高東低だが、東日本においても抗体保有が高い地域があることは注目すべきだ。
特に、愛知県・静岡県・千葉県での保有率が高い。

実際に、2015年には千葉県でも日本脳炎患者が出た。
その患者は、日本脳炎ワクチン接種前の10か月の男児であり、重度の四肢麻痺が残った。

日本における日本脳炎の患者は毎年10人未満だったが、2016年は11人に増え、25年ぶりに10人を超えた。
脳炎の診断は難しく、これは氷山の一角に過ぎないだろう。

■世界における、日本脳炎の流行域拡大

日本脳炎の流行域の拡大は、日本国内だけの問題ではない。
日本脳炎は、東アジア、東南アジア、南アジアにかけての、温帯地域・熱帯地域に広く分布しており、流行域が拡大している。

日本脳炎ウイルスは、日本などの温帯ではコガタアカイエカが媒介し、熱帯ではその他の数種類の蚊が媒介する。
加えて、日本脳炎の流行には、温暖化による媒介蚊の繁殖や洪水などの自然災害も寄与する。

写真:男性の足にとまる蚊
http://afpbb.ismcdn.jp/mwimgs/2/5/600w/img_25b3693f3ba3996410ac184273a09ed8123809.jpg

JBPress 2018.8.10(金)
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/53776

※続きます