上伊那地方の天竜川で行われ、冬の風物詩として知られる「ざざ虫漁」
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 幼虫が伊那谷の珍味として知られる「ざざ虫」の代表種「ヒゲナガカワトビケラ」の起源は、数億年前に南極とアフリカ、南米、インド、オーストラリアがつながっていた「ゴンドワナ大陸」の可能性があることが、信州大大学院出身の斎藤梨絵・福島県環境創造センター研究員(29)らの研究で分かった。研究を指導した信大の東城幸治教授(47)=進化生物学=は「信州なじみの郷土食材のルーツが解明されていけば興味深い」としている。

 東城教授の研究室では2010年、ヒゲナガカワトビケラの新種「ヤマヒゲナガカワトビケラ」を千曲川上流の南佐久郡川上村などで発見。遺伝子解析の結果、約440万年前にヒゲナガカワトビケラと種が分化したより古い系統と分かり、アジアの近縁種を調べる研究を始めた。

 研究は、信大大学院で東城教授の指導を受けた斎藤研究員が中心となり、形態分類学を専門とする千葉県立中央博物館や、埼玉大の研究者らと共同で実施した。

 ヒゲナガカワトビケラは日本の各地に生息しているが、斎藤研究員らは、沖縄や台湾、ミャンマー、タイなどアジア各地の近縁種について遺伝子解析。遺伝子の塩基の配列を比べた結果、日本より朝鮮半島に生息する種が古く、さらに東南アジアの種がより原始的であると分かった。また西のインドにも同種が生息しており、アジアでは、インドから北東に向かって分布域を広げながら、多くの種に分化した可能性が高くなった。

 一方、ヒゲナガカワトビケラ類は、アフリカ大陸や南米チリ、オーストラリア東海岸にも近縁種がおり、アジアとアフリカ大陸の種は特に形が似ていた。このため、ヒゲナガカワトビケラ類が大陸を越えて分布しているのは、アフリカとインドが分かれる前のゴンドワナ大陸が起源だと考えると合理的な説明が付くという。

 東城教授らは今後、チリやオーストラリアの近縁種についても遺伝子解析し、「ゴンドワナ大陸起源説」を裏付けたい考えだ。

 今回の研究結果をまとめた論文は7月、米国の淡水生物学の専門誌に掲載された。9月1日には松本市の信大理学部を会場に開く信州昆虫学会で、市民に紹介される。

信濃毎日新聞 8月22日
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