2018年8月24日
https://yomidr.yomiuri.co.jp/article/20180824-OYTET50020/
https://image.yomidr.yomiuri.co.jp/wp-content/uploads/2018/08/20180824-027-OYTEI50008-L.jpg
助手席でイラストを示して教習生に説明する教官。「抽象的ではなく、具体的な指導を心がけている」と語る

 発達障害がある人たちの運転免許の取得を支援するため、栃木県鹿沼市の自動車教習所が開発した教育プログラム「つばさプラン」が成果を上げている。

 福祉の専門家が相談に乗り、学科の個別指導やミニカーを使った技能教習など、一人一人に合った支援を展開。7年間で約170人が免許を取得し、他県にも導入の動きが広がっている。

■ 意思疎通が苦手

 発達障害者が就職などのために免許取得を目指しても、臨機応変な対応や教官との意思疎通が苦手で、挫折してしまう人もいる。こうした現状を受け、鹿沼自動車教習所は2011年、発達障害者に特化したプログラムを開始。「社会に羽ばたく『つばさ』になってほしい」との願いを込めて、「つばさプラン」と名付けた。

 教習を始める前に心配事や得意・不得意分野について調べ、本人や家族と面談を行う。社会福祉士や精神保健福祉士、障害児の保育経験があるコーディネーターがサポートする。

■ 年40人が受講

 学科では個別学習の時間を設け、文章を読むことが苦手な人には読み上げたり、集中力に欠ける人には短時間に区切ったりして教える。技能教習ではミニカーやイラストを使って車の動きを解説し、良かった点などを記した「アドバイスシート」を手渡す。同教習所の古沢正已社長(69)は「誰もが等しく車社会に参加できるようにしたい」と話す。

 12年につばさプランを受けた教習生は8人だったが、徐々に増え、昨年は40人に上った。東北や九州など県外からの教習生もいる。個室の合宿所を用意し、提携するNPO法人が食事や洗濯などを手助けしたり、緊急時には病院での受診に付き添ったりする。

 前橋市の40歳代男性は幼い頃から緊張しやすく、対人関係に不安を抱くことが多かったという。過去に2か所の教習所に通った際はつまずいてしまったが、同プランを受けたところ、今年6月に取得することができた。男性は「自信になった」と語る。

■ 取得後もフォロー

 同プランでは取得後のフォローも行っている。免許を手にしてから約1か月後と約1年後、教習所内と路上でそれぞれ、教官とコーディネーターが同乗して運転の様子を確認し、注意点などを伝える。鹿沼自動車教習所によると、これまでに免許を取得した人で、大きな事故を起こしたとの報告はないという。

 全日本指定自動車教習所協会連合会(東京)によると、障害者を受け入れる教習所は全国に約480校あるが、ほとんどが身体障害者向けという。今年6月には岩手、三重、熊本など6県の教習所11校の経営者らが参加して、同プランの共有に向けた研究会を設立した。同連合会は「多くの教習所が意識を変える必要がある」としている。

          ◇

【発達障害】  対人関係を築くのが不得意な「自閉症スペクトラム障害」、衝動的に行動しがちで集中力が続きにくい「注意欠陥・多動性障害」、読み書きや計算が苦手な「学習障害」などがある。症状のタイプや程度は一人ずつ違い、複数のタイプを併発することもある。