2018年10月9日 17時57分
東京都多摩市の認可保育園に、市職員の子を優遇して入園させたとして住民訴訟になっている問題は10月9日、東京地裁で弁論が開かれた。保育園への補助金の交付決定について「多摩市に広範な裁量権を認めていることは明らか」とする被告・多摩市に対し、原告は「基準を明示しており、市長の裁量の余地を残すように規定していない」と指摘した。次回期日は11月20日。

●原告は現役の多摩市職員
原告は現役の多摩市職員(代理人=加藤博太郎弁護士)。かつて保育行政を担当する課に在籍し、厳格なルールのもと保護者に公平に向き合い、泣かれたり怒られたりした経験がある。それだけに「職員の子を優遇することは過去に断ってきた家庭に説明がつかない」と、多摩市の対応を問題視している。

この裁判では、市職員の子を入園させたことで補助金を受ける面積基準を満たさなくなったのに、担当課長が交付を続けたことは違法だと原告が訴えている(額は計約456万円)。しばらく経ってから、市は補助金交付に関わる要綱で「5平方メートル」としていた部分を「おおむね5平方メートル」と改正。さかのぼって適用し、補助金交付を「追認」した。(この問題の経緯は記事末尾をご覧ください)

●多摩市「遡求適用で不利益なく、何の違法性もない」
これまでに多摩市は、面積基準を満たさないまま交付がされたことは認めつつ「自治体(多摩市)に裁量権があることは明らか」だと反論していた。10月9日の弁論で原告は、「5平方メートル以上の有効面積があること」と基準が明示されており、「市長の裁量の余地を残すように規定していない」と指摘した。

また、多摩市の「要綱は内部的な給付基準を定めたものにすぎず、法的拘束力はない」などとする反論に対しても、原告は解釈を誤っていると再反論。条例の委任を受けたり、補助金を受ける者は要綱の基準に基づいて必要な手続きを定めるとされていたりすることなどを挙げ、「条例の委任に基づく法的拘束力のある規範である」とした。

さらに、要綱をさかのぼって改正したことについて、多摩市は「適用されるものにとって不利益とならなければ許される」とし、「何の違法性もない」と反論している。この点について原告は「遡求適用自体は、一度築かれた過去の法律関係を覆すことであり、法的安定性の点から好ましいものではない」と指摘。補助金交付の違法性の追及をかわすためで、「不当な目的を有していたといえる」とした。

●裁判長「ご検討を」、多摩市に回答要請
閉廷前、裁判長は原告に対し、補助金の交付が違法だった場合、条例の施行規則など何を根拠に「補助金の返還」を求めることができるのかについて補充して説明するよう要請した。同時に多摩市に対しては、原告が釈明を求めている次の3点について回答するよう求めた。

(1)多摩市は本件以外に補助金の交付要件を遡求改正したことはあるか(2)2014年11月時点において、本件保育園を希望する46点以上(本件で優遇して入園したとされる児童は45点)の児童がいたか。2歳児に本件保育園を希望する46点の児童がいたのではないか(3)被告が担当課長と担当課主査(ともに当時)に「補助金の交付を決定する権限がなかった」と主張するのは二人の責任を否定する趣旨か

裁判長からこの3点について次回期日での回答を求められた多摩市は当初、「回答の有無を含めて検討させていただく」と応じた。だが、裁判長は首をひねり、「1は客観的な事実の確認で、2は本件と関係する事実の確認で、3は趣旨の確認なので、ご検討を」と再度要請。多摩市は「わかりました、はい」と応じた。

http://news.livedoor.com/lite/article_detail/15420263/