https://www3.nhk.or.jp/news/html/20190110/k10011774031000.html?utm_int=news-new_contents_list-items_005

「陸閘」未閉鎖で浸水加速か 住民避難を困難にした可能性
2019年1月10日 22時05分西日本豪雨

去年7月の西日本豪雨で、大規模な浸水被害が出た岡山県倉敷市真備町では、川の水が流れ込むのを防ぐ「陸閘」という設備が閉められなかったことで、場所によっては、浸水の深さが増すスピードがおよそ1.7倍速くなり、住民の避難を困難にした可能性があることが専門家の解析でわかりました。

陸閘は、道路や橋を通すため堤防の高さが周囲より低い部分を、門扉や板などで閉じる設備で、川が増水した際に住宅地などへの浸水を防ぐ応急的な堤防の役割を果たします。

岡山県と倉敷市によりますと、真備町には合わせて7つの陸閘がありましたが、去年7月の西日本豪雨の際は、いずれも開いたままになっていました。

河川の災害に詳しい東京理科大学の二瓶泰雄教授は、現地調査などを基にシミュレーションを行い、陸閘が開いている場合と閉まっている場合の浸水被害の広がりを分析しました。

その結果、陸閘が開いていると、地区によっては浸水の深さが増すスピードがおよそ1.7倍速くなったほか、住宅の1階部分が水没する深さ3メートルに達するまでの時間も3時間半近く早まり、住民の避難を困難にした可能性があることがわかりました。

また、最終的な浸水の深さも、50センチ近く深くなったということです。

陸閘が閉鎖されず、浸水被害が出るケースはここ数年、各地で相次いでいて、二瓶教授は「いざという時に活用できるよう備えておくことが必要だ」と指摘しています。

なぜ陸閘は閉鎖されなかったのか

専門家の解析で最も影響が大きかったのは、町内を流れる末政川にかかる有井橋の陸閘が開いたままだったことです。

有井橋は、真備町内を東西に走る片側1車線の市道にあるため、陸閘の管理や操作は倉敷市が担当していました。道路沿いには病院や商店が建ち並んでいて、交通量が多く、陸閘を閉めるには道路を通行止めにする必要があります。しかし、どのような状況で道路を通行止めにし、陸閘をいつ閉めるのか、具体的な雨量や水位の基準はありませんでした。

また、倉敷市によりますと、閉鎖に使う板は、管理を県から移管された10年以上前から無かったということで、他の場所から大型の土のうを運んできて閉鎖する予定だったということです。

倉敷市は、住民から寄せられた「末政川があふれた」という情報を基に、去年7月6日の午後11時ごろ、地元の建設会社に陸閘を閉めるよう要請しましたが、すでに水があふれていて、作業ができなかったということです。

川の近くで、自動車販売店を営む男性は「当時は、川からあふれた水の勢いが強く車が押し流されるような状況だった。しっかり閉鎖してほしかった」と話していました。

倉敷市は、現在、有井橋のたもとに土のうを保管していて、設置までの時間を短縮する対応をとっています。

当時の対応について、倉敷市土木部の梶田英司部長は「もう少し早めの対応が必要だったと感じるが、夜間で川の状況もわからなかったこともあり、残念ながら閉鎖できなかった。一方で、閉鎖が早すぎると、幹線道路を止めることになり、避難する住民をせき止めてしまうのではとジレンマを感じている」と振り返りました。

そのうえで、今後の対策について、「陸閘を閉める雨量などを示し、早めの避難をお願いするなど、市民との事前の申し合わせが重要だと感じている。また、災害時は、陸閘の対応だけに時間を割けないので、将来的には、道路の改良工事を行って陸閘自体を廃止するなど、抜本的な対策も必要で、岡山県とも協議を進めたい」と話していました。
(リンク先に続きあり)