早稲田大学(東京都新宿区)のそばにある麻雀マージャン店「早苗」が、来月2日に雀荘としての営業を終える。オープンから69年。学生のたまり場として愛されてきたが、近年は学生の麻雀離れで客足が鈍っていた。これからは喫茶・バーとして、再び学生が集まる店づくりを目指す。

 1950年にオープンした「早苗」は、多くの学生が行き交う早大の南門の向かいにある。木造モルタル2階建ての2階部分が麻雀コーナーだ。昭和の頃から使っている全自動卓が4台。1時間120円の学生料金は30年前からほとんど変わらない。

 2代目店主の宇田川正明さん(60)は「かつては卓が10台もあって、授業そっちのけで没頭する学生たちであふれていたんだけどね」と振り返る。

 宇田川さんの両親が自宅に雀卓じゃんたくを置いて営業を始めると、すぐに学生でにぎわうようになった。店を切り盛りしていた母・とわさんが、「おばちゃん」の愛称で親しまれる明るい人柄だったことも、人が集まる理由の一つだった。

 早大OBの漫画家やくみつるさんも在学中に足しげく通い、早大出身の俳優吉永小百合さんが訪れた写真もある。学生運動が激しかった頃は、警察官に追われて店に逃げ込む若者もいたという。

 宇田川さんも早大出身。授業を終え、当時は自宅スペースだった2階への階段を上がろうとすると、なじみの客から「おい、一緒にやろう」と誘われ、麻雀ざんまいの日々だった。就職活動で広告会社の面接に行くと、面接官は店の常連客。話が盛り上がり、そのおかげか、内定をもらって入社することになった。

 「店に来れば誰か知り合いがいるという感じだった」。宇田川さんがそう振り返る状況は、90年代後半から変わってきた。学生にも携帯電話が広まり、待ち合わせや暇つぶしに来店する学生が減少。麻雀のルールを知らない学生や、ゲームでしか麻雀をやったことがない学生も目立つようになった。

 宇田川さんは、母のとわさんが10年前に82歳で他界してしばらくたってから、広告会社をやめて店を継いだ。しかし、雀荘だけでの経営は厳しく、3年前に店内を大幅に改装。1階を喫茶・バーに変え、麻雀ができるコーナーは2階に移した。

 それでも雀卓が客で埋まることはまれで、稼働率は1割ほど。やむなく雀荘の廃業を決めた。麻雀コーナーは、多くの学生が春休みに入る2月2日が最後。その後は店内を全て喫茶・バーに改装する。

 早大周辺に30軒ほどあったとされる雀荘も、わずかになった。宇田川さんは、アクリル板を敷いた雀卓をテーブル代わりにしてコーヒーやカクテルを味わってもらおうと考えており、「麻雀を知らない学生にも、連絡手段がなかった昔は学生が交わる場だったということを感じてもらいたい」と話している。

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2019年01月29日 18時48分
YOMIURI ONLINE
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