東京地裁が著名裁判記録を廃棄 永久保存は11件のみ
毎日新聞 2019年2月5日 20時28分(最終更新 2月5日 20時28分)
https://mainichi.jp/articles/20190205/k00/00m/040/227000c

 憲法判断が示されるなど、歴史的価値のある民事裁判の記録を永久保存する制度を東京地裁が適用したケースは、1965年に制度が始まって以来11件にとどまっていることが明らかになった。既に多くの著名裁判の記録が廃棄されており、裁判の当事者からは制度の積極適用を求める声が上がっている。

 民事裁判などの資料の取り扱いについては最高裁の規程や通達で定められ、判決の原本は国立公文書館で永久保存される。訴状や当事者の主張書面などの記録は、保存期間が判決確定後5年間とされているが、
「史料や参考資料となるものは期間満了後も保存しなければならない」と規定され、各地裁の判断で選んだ裁判記録を永久保存している。


 東京地裁が永久保存すると決めた11件は、集会の不許可処分の取り消しを国に求めた「皇居前広場事件」やオウム真理教の破産事件、明治時代の裁判記録など。法廷で傍聴人がメモを取る権利を最高裁が認めた「レペタ訴訟」や、在外邦人の国政選挙の選挙権を巡る訴訟など、多くの著名裁判の記録が廃棄されていた。

 一方、保存期間を過ぎた後も永久保存するかどうかの判断をせずに残されていた記録が約270件あった。古いケースでは昭和20年代の記録があるという。地裁は、うち40件について永久保存する方向で検討している。

 地裁は、永久保存の制度の運用について「11件は適切な判断だった」との認識を示すにとどめ、「保存期間が満了した記録の残存は適切でなかった。今後、満了前に廃棄するか保存するかの判断をしていく」としている。

 レペタ訴訟と在外邦人選挙権訴訟の原告代理人を務めた喜田村洋一弁護士は「当事者の詳しい主張や法廷での証言は記録を読まないと分からない。廃棄により、閲覧の機会が失われたことは大変遺憾だ」と話す。
保存するかどうかの判断が各地裁に委ねられている点に関し「在外邦人選挙権訴訟は最高裁が特定の法律を憲法違反と判断した数少ない事例であり、最高裁自らが保存すると判断しても良かった」と指摘した。

 また、レペタ訴訟の原告で米ワシントン州弁護士のローレンス・レペタさん(67)は「裁判記録は価値が高い。廃棄は無責任だ。傍聴人のメモが禁止されていた中で、当時の裁判官がどのように考えていったのかが分からなくなってしまった。国民の『知る権利』を守るため、記録がなくならないようなシステムを作らなければならない」と話している。【服部陽、伊藤直孝、青島顕】