「誰にも相談できないと思っていた」。ひきこもりの長期化で、高齢の親とともに生活に困窮するケースが増えている。ともに暮らした両親が相次いで死亡し、新たな生活を始めた東京都内の男性(56)が、当時の心境を語った。

 中学でいじめに遭い、高校卒業後に運送会社で働いたが、客からのクレームなどで精神的に追い詰められ二年で退職。簿記の資格を取るために通った専門学校も途中でやめて、四十歳から自宅にひきこもった。その頃、両親はともに七十代。男性に少しでもお金を残そうとしたのか、病院に行くのを見たことがなかった。

 二〇一六年の秋。父が動かなくなっているのに気づいた。「寝ているだけだから」と母。自ら一一九番し、駆けつけた救急隊員がその場で死亡を確認。さらにこう続けた。「お母さん、認知症が始まっているようです」

 父は晩年、脳梗塞でろれつが回らなかった。母が対応しないので「大丈夫だろう」と勝手に思い込んでいた。

 「私がもっと早く両親の異変に気づいていれば、父に介護を受けさせたり、母を病院に連れて行ったりできたはず」

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 母も一七年に亡くなり、たった一人の生活が始まった。思い切って高校時代の友人に十数年ぶりに電話をかけると、市の福祉窓口を教えてくれた。

 収入はなく、当面は親の蓄えでしのがなければならない。現在の賃貸から家賃の安い公営住宅に移りたいが、仕事をせず、保証人もいないため難しい。人づてに紹介された支援者に入居可能な物件を探してもらい、少しずつ働けるように、就労移行支援事業所の申し込み手続きも始めた。

 男性は「自分は助けてくれる人に出会えて運が良かったが、ひきこもりになると自らを責め、なかなか周囲に相談できない。専門の支援体制をつくってほしい」と話した。

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