5/21(火) 20:07配信
毎日新聞

 30年あまり続いた平成で広がったことの一つが、「性の多様性」を尊重する価値観だ。性的マイノリティーを表す「LGBT」という言葉が浸透し、当事者であることをカミングアウトする人も出てきた。ただ、偏見や無理解がなくなったわけではなく、法律や制度上の課題も残る。香川県内の当事者たちの取り組みや行政の現状を追った。

 同県内では1995年に当事者団体「プラウド香川」が発足した。当初のメンバーは2人。その一人で代表の藤田博美さん(48)=高松市=は「90年代に入り、全国各地に同じようなグループができた。偏見や抑圧から脱却しようという思いが強まりだした頃だった」と振り返る。

 活動を始めてすぐの頃、ある公共施設に登録団体として加盟しようとしたら、「趣旨に合わない」と一度は断られたという。社会的理解は当時、進んでいなかった。

 そうした中、プラウドは当事者同士の交流に加え、教育機関や企業向けの講演会など啓発活動に取り組んだ。体と心の性が一致しないトランスジェンダーのメンバーが戸籍と異なる性別での就職を希望し認められるなど、ありのままに生きることを望む声は少しずつ社会に届いていく。

 現在、メンバーは支援者も含めて30人超。自分たちの存在を知ってもらおうと声を上げることで、仲間や理解者を増やしていった。当事者であることをカミングアウトして生活する者もいる。「LGBTであることが徐々に負の要素でなくなっていった」。藤田さんは変化を実感する。

 一方、課題も残る。

 「結婚の自由を全ての人に」。全国の同性カップル13組が今年2月、同性の法律婚が認められないのは「婚姻の自由」や「法の下の平等」を定めた憲法に反するとして、国に対する訴訟を各地裁に起こした。香川県三豊市で暮らす田中昭全(あきよし)さん(41)と川田有希さん(34)の2人も大阪地裁での審理に臨んでいる。

 2人は付き合って10年以上。同居期間も長い。だが、法的には他人同士のままだ。遺産相続を受けられなかったり、医療現場で家族の扱いをされなかったりするなど、現状ではさまざまな不利益を被る可能性がある。

 日本はLGBTへの対応が遅れていると指摘されており、田中さんは「来年には東京五輪・パラリンピックもある。訴訟には問題の大きさを社会に認識してもらう目的もある」と話す。川田さんも「国が制度を作り、僕らが訴訟を取り下げる。それが理想」と言う。

 法的な保障がない中で、夫婦に準じた対応を取る「パートナーシップ制度」を導入する自治体は増えている。ただ、県内での導入例はまだない。同県丸亀市が一時検討したものの、「性的少数者に対する認知度が不十分」として見送った。三豊市が制定に向け近く庁内に研究会を設けるなど前向きな動きも出ているが、一部にとどまる。

 藤田さんは「LGBTであることを明かしても何の不利益もなく暮らしていけることが大切」と話す。多様性の尊重が一層進むことを当事者らは願っている。【金志尚】

https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20190521-00000080-mai-soci