【ロンドン=篠崎健太】国際エネルギー機関(IEA)は28日、原子力発電の後退による中長期の影響をまとめた報告書を公表した。発電所の維持や新設などの手を打たなければ、先進国では2040年までに原発の発電能力が最大で約3分の2減ると予測した。電力需要を他の電力源で賄えば、費用や温暖化ガス排出量の増加につながると分析し、急激な原発縮小のリスクを警告した。

報告書によると、先進国では18年に原子力が電力供給の18%を担った。最大の低炭素エネルギーの供給源となっているが、1970〜80年代に建設した原発の老朽化が進み、近年は発電に占める割合が下がっている。耐用年数を過ぎた原発の廃炉がこれから各国で増える見通しだ。

IEAは停止する原発の発電量を他で補おうとするなら、40年までに3400億ドル(約37兆4000億円)の投資が必要になると推計した。化石燃料への依存が高まり、同年までに二酸化炭素(CO2)の排出量を計40億トン押し上げるという。

今後、風力や太陽光など再生可能エネルギーの発電量は増えるものの「原発への投資がなければ持続可能なエネルギーシステムの実現をさらに難しくする」と強調した。原発の先細りは電力の安定供給の観点からも、問題を生じるとみている。

IEAは安全性に最大限配慮した上で運転年数を延長することや、低コスト化が見込まれる「小型モジュール炉(SMR)」と呼ぶ次世代原子炉の開発支援などの政策を提言した。

11年の東京電力福島第1原子力発電所の事故以降、安全対策などで原発のコストは高まっている。ドイツが段階的な廃止に動くなど原発には逆風が強まる。一方、気候変動対策で温暖化ガスの抑制が急がれるなか、急激な脱原発にも課題がある。IEAは低炭素社会への移行を支える安定電力源として、原発の当面の維持を訴えている。

2019/5/28 8:46 日本経済新聞
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