https://headlines.yahoo.co.jp/article?a=20190705-00010002-newsweek-int
<かつて最強を誇った「メルケルの党」がたった1本の動画に慌てふためいた理由>
 ドイツで5月26日に行われた欧州議会選挙の約1週間前、青く髪を染めた若い男が「CDUの破壊」というタイトルの動画をインターネットにアップした。
文字どおり、与党・キリスト教民主同盟(CDU)による過去14年間の「破壊行為」を誇張気味に糾弾する内容だった。

ネット上で「レゾ」と名乗る若者の正体は、26歳の映像プロデューサー。
ミュージシャン、エンターテイナーとして人気を集め、メインの YouTube チャンネルには160万以上のフォロワーがいる。
この政治色の強い動画は、実際にCDUが欧州議会選で不振だったこともあり、かつてはアンゲラ・メルケル首相の下で無敵に見えた「最強の党」を動揺させた。
そして、ドイツ国民の間に同党の未来に対する疑念を呼び起こすことになった。
長年ドイツ政界を支配してきた中道右派のCDUは、特に若い有権者の間で支持の低下が目立つ。
もっと右に路線を修正して出血を止めようとしたが、支持率低下に歯止めがかからない。一方でメディア戦略はほとんど変わらないまま。
レゾの動画は同党のコミュニケーション能力の低さを浮き彫りにした。

動画では3つのポイントを挙げてCDU糾弾する。
まず、CDUの政策は所得格差の拡大と社会的流動性の減少の原因になっていると、レゾは主張する。
第2に、ドイツ南西部のラムシュタイン空軍基地を中東での戦争の中継地にするアメリカに抵抗しなかったCDUと、連立を組む中道左派の
社会民主党(SPD)は、どちらも戦争犯罪の共犯だと非難する。
そして何より、保守的で無能で腐敗した政治が地球温暖化対策の障害になっているという第3の主張だ。

<ポストメルケルが炎上>
 若者の間で人気のスラングを巧みに操るレゾの語り口も相まって、動画は爆発的な人気を集め、アップから4日で閲覧回数300万を突破。
6月下旬時点で1500万回を超えている。
南ドイツ新聞によると、CDUはこれに対抗する動画を用意したが、その後公開を中止。代わりにPDF文書の形で反論をネット上に投稿することにした。

レゾはさらに追い打ちをかけた。
投票2日前、YouTubeで大きな影響力を持つ約90人の「インフルエンサー」と共に動画を作成。
連立政権はドイツを破滅的な気候変動へと導いていると強調し、事態の緊急性を思い知らせるためにもCDUに投票してはいけないと訴えた。
欧州議会選でCDUの得票率が前回比で7ポイント低下すると、政治評論家は早速「レゾ効果」を指摘した。
本人は選挙への影響を否定したが、CDU指導部の見方は違っていた。

<野放しにされてきたネット有名人>
 アンネグレート・クランプカレンバウアー党首は投票日後にツイッターで、選挙期間中はネット上で強い影響力を持つ人物の言論に
一定のルールを導入すべきだと示唆した。
「民主主義社会で言論の自由は宝石のような価値があるが、選挙の際に適用されるルールについて、私たちは話をしなければならない」

この声明は嘲笑の的になった。
保守派の政治誌キケロの編集者は、CDU指導部はレゾがネット広告大手のシュトレアー・グループと提携している事実に言及するだけでよかったと指摘する。
左派に加えて多くの中道派も、声明は時代に逆行しており愚かだと主張した。
メディア法に詳しい著名な弁護士ヨハネス・ウェバーリンクも、クランプカレンバウアーの対応を「ひどい」と評したが、一方でネット上の有名人の
政治活動について議論する時期に来ているという点には同意する。
既存の法律は、ジャーナリストに真実の報道を要求しているが、ネットの有名人は野放しだ。
新聞が特定候補を支持することはドイツでは合法だが、新聞の「意見」ははっきりそれと分かるようにしなければならない。

<2大政党の不人気は深刻>
 だが「報道」と「意見」を厳格に区別することや、既成政党が積極的にSNSを活用することで、現在の混乱を沈静化できるとは思えない。
「政党もジャーナリストも同じ問題を抱えている」と、調査報道に取り組むNPOコレクティブの代表オリバー・シュレームは言う。
コレクティブはヨーロッパの国境での税金詐欺の記事をネットで発表する際、人気コメディアンと協力してソーシャルメディアに記事を広めることに成功した。
「若者が政治に無関心なのではない。私たちが彼らにリーチする方法を見いだせていない」と、シュレームは言う。

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