https://headlines.yahoo.co.jp/article?a=20190711-00000003-courrier-int
 アフリカや中東などでは、女性器の一部を切り取る女子割礼が根強くおこなわれている。
こうした慣習は、女性たちの心と体に深い傷を残してきたが、近年、欧米では性器を再建する手術が大きな進歩を見せている。
陰核再建手術を受けた4人の女性たちを「ニューヨーク・タイムズ」の女性記者が2年間にわたり取材したレポートをお届けする。

■「一生の傷」を癒すための手術
 それは、自分の心の奥底に眠る最も暗い秘密だと彼女は言った。夫にさえ打ち明けられなかったと。
西アフリカのシエラレオネで育ったサフィアトゥ・シラフ(36)は、子供の頃に割礼の儀式でクリトリスを切除された。
その傷跡のせいで、セックスのときには痛み悩まされ、出産時には激痛に悶え苦しんだ。
米フィラデルフィアに移住し、薬剤師として働くシラフは、第2子を出産するとペンシルベニア大学の形成外科医イヴォナ・パーチェックに助けを求めた。

パーチェックは、手術を受ければ苦痛が緩和される可能性はあるが、傷痕の下からクリトリスの残存部分を見つけ出すことはできないかもしれないと説明。
それでもいいなら、「埋もれた宝物」を掘り出してみようと提案した。
「クリトリスはただの小さな三角形の隆起だと思われていますが、それはほんの先端に過ぎません」とパーチェック。
パーチェックには、大陰唇や小陰唇を整形する陰唇形成手術の経験があった。

■陰核再建手術を受けた4人女性たちの「声」
 アフリカ、アジア、中東など世界中で割礼を受けた女性や少女の数は、現在2億人を超えている。
彼女たちへの適切な治療が必要とされている一方で、どうすれば外科治療によって肉体的な苦痛を緩和したり、性的快感を高めたりできるかといった研究は
これまでほとんどおこなわれてこなかった。

「患者たちは、身体的にも精神的にも健康を取り戻したいと私たち医師に助けを求めます。しかしながら、研究が足りないせいで、
その要望にはなかなか応えられないのが現状です」
そう話すのは産婦人科医のナワール・ヌールだ。
ヌールは、米ボストンのブリガム・アンド・ウィメンズ病院でアフリカ女性医療センターの所長を務める。

パーチェックがクリトリスを手術したのは、2016年のシラフのケースが最初だった。
世界的にもパーチェックのような医師は少ないが、その数は増えつつあるという。
「陰核再建手術」と呼ばれるこの手術に疑念を持つ医療専門家もいる。
この手術によって苦痛が軽減されたという報告がある一方で、WHO(世界保健機関)は安全性や有効性には疑問が残り、
とりわけオーガズムの改善を希望する女性たちには、非現実的な期待を抱かないようにと忠告している。

だが、欧米諸国で陰核再建手術の需要は高まる一方だ。
というのも、割礼を受けた女性が医療技術の進歩した国へ移住するケースが増えているからだ。
先進国のなかには陰核再建手術に保険が適用される国もある。

私は過去2年間の取材を通じて、4人の女性の口から、それぞれの個人的な体験を詳しく聞かせてもらうことができた。
医療従事者、ヘアスタイリスト、バスの運転手、そして病院薬剤師をしているシラフの4人だ。
そのうちのひとりは、私を自分の外科手術に立ち合わせてくれた。
女性たちはそれぞれ、身体や心に負った深い傷を、パートナーとの関係が壊れた苦しみを、自分は「正常」ではないという恥辱の思いを私に語ってくれた。
そのひとつひとつの物語を、紹介したい。【後編に続く】