■ハリケーン撃退法、珍案は核爆弾だけではなかった
恐ろしい嵐を鎮めるために考えられた奇抜なアイデアたち

 核爆弾を打ち込んでハリケーンを破壊できないか。60年前に提唱された荒唐無稽なこのアイディアが、再び注目を集めている。トランプ大統領が、国家安全保障の顧問へ提案したと報じられたのだ。後に大統領は報道を否定したが、こんなことを言い出したのはトランプ氏が初めてではない。これまでも、ハリケーンを阻むために様々な珍案が提唱されてきた。

 今でこそ科学界では異端扱いされているハリケーン撃退法だが、1960年代から1970年代にかけては盛んに研究されていたと、米コロラド州立大学のハリケーン専門家フィル・クロッツバック氏は言う。米国政府は何年もかけて、ヨウ化銀粒子を大気に散布してハリケーンの勢力を弱めようと実験していた。結局、計画には致命的な欠陥があるとして中止された。

 他にも、ポンプで海水を冷やす、ゼリー状の物質で湿気を吸い取るなどといった、さらに奇抜なアイディアもある。これまでに検討されたいくつかの案を紹介しよう。

■ストームフューリー計画

 ハリケーン破壊実験として最も有名なのは、米政府が1962年から1983年まで実施した「ストームフューリー計画」だろう。

 1949年、大気科学者のバーナード・ボネガット氏は、雲の中にヨウ化銀という物質があると、氷の結晶ができやすくなるもしれないと発表した。雲の中の氷の結晶は雨のもとになる。したがって、ヨウ化銀の粒子をハリケーンに散布すれば、ハリケーンの目を取り巻く円筒状の積乱雲、いわゆる「目の壁雲」より外側に雷雲が形成され、それによって目の壁雲が外側へ向かって拡大し、風の力が弱まると、政府の科学者たちは仮説を立てた。

 これを基に、ストームフューリー計画では4つのハリケーンで計8日、ヨウ化銀が散布された。そのうち半分で、散布後に風力が30%弱まったように見えたが、後にこれらの結果には疑問が呈された。

 ハリケーンの目の外側にある降雨帯で、自然に雷雨が発生し、やがて内側へ移動して目の壁雲を弱体化させることがある。そして、目の壁雲にとって代わるという「壁雲の交代」が起こることもある。結局、実験ではヨウ化銀ではなくこの自然現象がハリケーンの勢力を弱めていた可能性が高いと判断された。

 米国海洋大気庁ハリケーン研究部の元部長で、フロリダ国際大学教授のヒュー・ウィロウビー氏は、「ストームフューリー計画の実験計画法は、小さな目を持ったカテゴリー4か5(5段階のうち上位2段階)のハリケーンを実験対象にしようとしていましたが、このようなハリケーンこそ、壁雲の交代が起こりやすいのです」と話す。

■炭を散布、ジェルで吸収

 黒色炭素(ブラックカーボン)、いわゆる炭を使って風を治めようというアイデアもあった。

 黒色炭素は太陽のエネルギーを吸収して大気へ放出し、気温を上昇させる。熱帯低気圧が専門の気象学者ウィリアム・グレイ氏は、ジェット機で下層大気へ炭を散布すると、海の上の気温を上昇させ、海水の蒸発を促し、雷雨が形成されると考えた。ストームフューリー計画と似ていて、この雷雨を正しい場所に発生させることができれば、ハリケーンの目の壁雲を弱めることができるとグレイ氏は考えた。

 あるいは、雲の形成を促すのではなく、ハリケーンの雲の水分を搾り取るという作戦を検討した人もいた。2001年、起業家のピーター・コルダニ氏は、ダイノジェルという吸収性の高い粉末を雲の中に散布して雲をレーダーから消し去ることに成功したと報じられ、話題になった。ダイノジェルは触れた水分を吸収して粘性のジェル状物質に変化する。コルダニ氏の会社では、紙おむつ用にダイノジェルを製造しており、いつの日かハリケーンを干上がらせるために使えないかと期待していた。

 しかしウィロウビー氏によると、ハリケーン研究部はコルダニ氏のアイデアが理論的に信頼に足るとは判断できなかったという。たとえ効果があったとしても、ハリケーンほどの大きさになると膨大な量のダイノジェルが必要だ。同じことは、炭にも言える。どちらのアイデアも実際にハリケーンで実験されなかったのは、そのためだろう。

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