「ボコボコ、ボコ」。

 台所の排水口から響く聞き慣れない音が、不気味だった。起床してまもない午前6時半ごろ。「水が逆流しているみたい」。宮沢環江さん(47)=長野市下駒沢=は不審に感じていた。同市穂保(ほやす)の千曲(ちくま)川の堤防決壊場所からは2キロほど離れていた。

 それから、わずか数分後。玄関から濁った水が流れ込んできた。「大変だから! 早く起きて!」。木造2階建て住宅の1階で寝ていた父厚夫さん(78)をたたき起こした。母、兄とともに思わず洋服をこたつの上に乗せた。だが、水は床下の収納スペースからもあふれてきた。

 「四方八方から茶色い水が襲ってきて、まるで川の真ん中にいるようで」。水かさはみるみる増し、腰の高さほどに。通帳などの貴重品を持って2階に逃げた。

 それでも、水の勢いが止まらない。「このまま水位が上がったら、家が流される……」。窓から複数のヘリコプターが見えた。消防や警察に助けを求めつつ、厚夫さんが服を旗のようにして窓から振った。宮沢さんも、母とともに手を振り続けた。

 「命、ありましたね。助かりましたよ」。午前11時半すぎ、プロペラの強い風が吹き付ける中、窓から入ってきた救助隊員に声をかけられた。

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