■離婚で離れた実父からの性被害
「実父が娘に性的な行為をすること自体がおかしい。議員さんたち、自分の家族がもし同じ目に遭ったら、絶対に法律を変えていると思います」

 かずみさん(仮名)は、取材に対して落ち着いた声でそう話した。彼女の娘は昨年、離れて暮らしていた実父からわいせつな被害に遭った。事件当時13歳だった。

 2018年春、前夫は、勤務する会社のイベントに娘を連れて行き、その帰りに車の中で体を触るなどの行為を行った。かずみさんが離婚したのは今から9年前。娘と実父が会ったのは、このときが7年ぶりだった。

 かずみさんが被害を知ったのは秋。その後、年が明けてから警察に相談した。最初は生活安全課が対応したが、しばらくして刑事課の担当に。強制わいせつや、監護者わいせつでの立件を視野に入れてのことだったと思われる。

 しかし捜査中の今年3月から4月にかけて、性犯罪の無罪判決が相次いで報じられると、「刑事課の刑事さんたちがトーンダウンした」。無罪判決が出た裁判所の一つは、かずみさんたちが暮らす街の近くだった。

■娘の一言を「同意」と誤解?
 現在の性犯罪刑法における「性交同意年齢」は13歳。事件当時13歳だった娘に行われた行為について、強制わいせつに問うためには「暴行もしくは脅迫」があったことが必要となる。

 父親から殴る蹴るの暴行や「殺すぞ」といった脅しはなかったが、実父の行動に動揺した娘は、目に見える形で抵抗したり、逃げたりすることができなかった。

 一方、2017年の刑法改正で新設された監護者わいせつ罪では、被害者が18歳未満で、加害者が「監護者(実親や養親など子どもを監護する立場の人)」である場合、「暴行・脅迫」の有無は問われない。

 しかし、離婚した実父は「監護者」に当たらないと判断された。

「前夫は息子とは会っていたのですが、娘は会いたがらなかったので会っていませんでした。養育費の支払いもなかった。だから『監護者』ではないと刑事課の刑事さんに説明されました」

 その後、担当が生活安全課に戻り、父親は条例違反(淫行)で在宅起訴。罰金刑のみとなる可能性が高いと説明を受けた。

 取り調べに対して父親は、娘が「パパ、ちゃんと話をしようよ」と言ったことを「行為の同意」と思ったと話したという。娘からすれば、父親の行動を異常だと感じ、やめさせようとして言った言葉だった。

 起訴後、お互いの弁護士を通じて示談に。示談を選んだ理由は、「今後、娘に会わない」という取り決めを結ぶために、ほかに手段がなかったからだ。元夫は示談金を分割で支払うことを提案。初回以降、弁護士を通じて催促する状況となっている

 かずみさんは言う。

「生活安全課の方は親切に話を聞いてくれて、何とか条例違反にはしてくれました。こちら側の代理人となってくれた弁護士さんも、強制わいせつにならないのかと意見書を書いてくれました。それでもやはりダメだった。

離れて暮らしていた父親は監護者にあたらないとされてしまいましたが、元夫は会社のイベントに娘の『保護者』として参加していました。娘は父に車で送ってもらわないと帰る方法がなかった。事件のあったその日は、娘にとって『監護者』だったと私は思っています。

実父が娘に性的な行為をしてもきちんと裁けず、示談にしないと会わせないように取り決めることもできない。こういう状況があることが、世の中に知られてほしいと思います」

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https://news.yahoo.co.jp/byline/ogawatamaka/20191027-00147991/