ツイッターやインスタグラムなどのSNSには「リツイート」という便利機能がある。「Re(=再び)ツイート」する、つまり他人のツイートを自分のアカウントから“再”発信する機能のことだ。これによって誰でも手軽に情報を拡散できるようになった。しかし、このリツイートをしただけで「名誉毀損」などで訴えられるリスクがあることをご存じだろうか。新都心法律事務所の野島梨恵弁護士に話を聞いた。(清談社 角南 丈)

■あおり運転事件では無実の女性のデマが拡散

「うそはうそであると見抜ける人でないと(掲示板を使うのは)難しい」

 これはネット掲示板「2ちゃんねる」の創始者ひろゆき氏による2000年当時の発言だ。あれから20年近くたち、SNSや動画配信サイトなど多様なネットサービスが普及した今でも、真理を突いた言葉であることに変わりはない。

 今年8月に常磐道で発生した「あおり運転事件」。犯人の男が罪もないドライバーをあおった揚げ句に殴り掛かるというセンセーショナルなニュースが話題になったが、その際に犯人の男の車に同乗して犯行の様子を笑いながらガラケーで撮影していた女にも批判が相次いだ。「このガラケー女は誰だ!」「探し出せ!」と“特定祭り”に発展したが、その後にガラケー女として顔写真が拡散された女性はまったくの別人だった。

 身に覚えのないデマで個人情報が拡散され、不特定多数から誹謗中傷を受けた被害女性は代理人弁護士と会見を開き、デマ情報をツイート・リツイートした人間に対して法的措置を取る構えであることを表明。被害女性は「SNSで手軽に発信できる時代だが、責任を取れるのか考えてほしい」と訴えた。

 さらに最近は別な事案も起きている。橋下徹氏が、ジャーナリストの岩上安身氏によるリツイートで名誉を傷つけられたとして、慰謝料を求めていた裁判の判決が今年9月に大阪地裁で下された。裁判長はリツイートによる名誉毀損を認め、岩上氏は橋下氏に33万円の支払いを命じられたのだ。

■リツイートでの名誉毀損賠償額の相場は「10万〜20万円」
橋下氏の一件に限らず、リツイートが名誉毀損に該当するとされた判決は過去にもある。ちなみに名誉毀損が成立するには、「公然と」「事実を摘示し」「名誉を棄損する」という3つの要件が必要だ。ただし、それが公益目的の書き込みであり、かつ真実である場合には名誉毀損には当たらない。

 2014年、東京地方裁判所において、リツイートの責任を問う判決が下されている。この判決では、「リツイートも、ツイートをそのまま自身のツイッターに掲載する点で、自身の発言と同様に扱われるものである」とされ、原告に対して慰謝料の支払いが命じられている。

「この裁判で原告は『リツイートした内容は元々、自分が発信したものではない』という趣旨の主張を展開しました。しかし裁判所は、リツイートであってもツイートと同じように損害賠償請求は可能である、というふうに結論づけたのです」

※中略

■裁判所がリツイートに厳しい意外な理由とは!?

だがこれは当然のことだ。自分の隣にいる人物が「A氏はうそつきでアホだ!」「死ね、殺すぞ!」などと大声で事実無根の侮辱や脅し文句を叫んだとしよう。それを聞いた自分も同様に叫べば罪に問われるのは、実社会でも同じである。

 SNSという拡声器は、こうした当たり前の感覚すらもまひさせてしまうのだ。

「デマや侮辱などをリツイートされた人は、『事実確認もしていないのに、何てものを拡散してくれたんだ』と思うのは当然のことです。リツイートした側は軽い気持ち拡散したつもりでしょうが、リツイートされた側は、半永久的に自分のネガティブな情報がネット上に残ってしまう可能性もありますからね」

 とはいえ、過去のリツイートをめぐる裁判所の判決などは、このネット社会においては若干厳しすぎるという印象を抱く人も多いだろう。だがそれにも理由があるようだ。

「少し前に世間を騒がせた岡口基一裁判官は、ブリーフ一丁姿の自撮り写真などをSNSに投稿し、最高裁から『表現の自由を逸脱している』『裁判官に対する国民の信頼を損ねた』と戒告処分を下されました。これはあくまでも私の個人的な印象ですが、裁判所はツイッターなどSNSを用いて容易に、あるいは不用意に情報が拡散されてしまう今のネット社会のあり方について、相当警戒しているのではないかと感じています」

 玉石混交の情報が飛び交うネット社会の中で、与太話を真に受けて拡散してしまうと、思わぬしっぺ返しを食らうことになるかもしれない。

https://diamond.jp/articles/-/222897
2019.12.10 5:10