「住民税を滞納し続けてしまったんです。日本語が分からなくて」―。広島市内で暮らすフィリピン人女性(32)から、こんな話を聞いた。納税を求める市の通知は日本語表記だけで、何が書いてあるか分からなかったという。おかげで女性は延滞金まで払うことになった。どうもふに落ちない。「自己責任」で済ませていいのだろうか。


 女性は約7年前、母国を離れ同市に移り住んだ。職場を何度か変えながら、非正規で製造業などの現場で働いてきた。日本語はあいさつが交わせる程度。漢字は全く分からない。税金の払い方についての知識もなかった。

 この春ごろに突然、給料ががくんと減った。フィリピン人労働者を支援する会に調べてもらったところ、市によって差し押さえられていた。女性はここで初めて「滞納して大変なことになっている」と知る。滞納の通知や差し押さえを予告する書類も届いていたが、こちらも日本語表記だったため読めなかった。逐一、自分宛ての郵便物について尋ねられるような知人は、身近にはいなかったという。

 時給制で、残業も夜勤もこなして手取りは月20万円ほど。ボーナスはない。およそ5万円の延滞金もずしりとこたえた。「せめて英語で記されていたらこんなことにならなかったのに」と女性はうつむく。

 住民税を扱う市財政局によると、税額や納付期限などを知らせる通知は日本語表記だけという。理由について、市民税課の粟森智益課長は「外国人住民から外国語表記の要望は再三あるわけではない」と説明する。

 これに対し、広島文教大の岩下康子講師(異文化理解)は「税金を徴収しながら納税者をサポートしないのは矛盾している」と指摘する。「税金を課す以上、外国人住民たちがきちんと支払える環境をつくっていくのが行政の使命ではないでしょうか」

 一方で、通知方法を工夫する自治体もある。例えば浜松市。住民税の通知書を入れる封筒には、日本語と英語、ポルトガル語の3言語で内容を併記する。税金を扱う担当課にはポルトガル語の通訳が4人いる。岐阜県美濃加茂市は滞納者が外国人である場合、ポルトガル語か英語で文書を送る。担当課にはポルトガル語の通訳を1人配しているという。

 4月、外国人労働者の受け入れを単純労働分野にも拡大する改正入管難民法が施行された。もはや外国人労働者は、地域経済を支える存在に他ならない。それだけに岩下講師は「自治体は労働力としてだけではなく、住民として受け入れる体制を整えていく必要がある」と力を込める。

 技能実習生を中心に、今後さらに言葉の支援が必要な外国人は増えていくだろう。情報から取り残されるようなことがあってはならない。私たち隣人も、そんな困難さへの想像力をもっと働かせたい。

12/30(月) 10:00配信
中國新聞デジタル
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