「過剰なベッドを削減しろ」――5カ月前、安倍首相が関係閣僚に飛ばした指示は、コロナ禍の今も生きていた。

 昨年10月28日、社会保障制度改革を議論した経済財政諮問会議。テーマは、団塊の世代が75歳以上となる2025年までに目指すべき医療体制の将来像を示した「地域医療構想」だった。

 民間議員は「実現に向けた進捗が十分ではない」と指摘。昨年9月に厚労省が「再編統合の議論が必要」として全国424の公立・公的病院の実名を公表したことを踏まえ、「病院や過剰なベッドの再編は、公立・公的病院を手始めに、官民ともに着実に進めるべきだ」と提言した。

 すると、安倍首相は「限られた財源を賢く活用し、国民生活の質の向上を図ることが重要なポイント」などと発言。提言を受け入れ、全国に約13万床あるとされる過剰な病床削減の実行を加藤厚労相らに指示した。

それから、5カ月。コロナ感染者の急増に備え、全国で病床数確保が懸念される中、安倍首相は「削減」指示を撤回しないのか。厚労省に確認すると、「今も変更はない」(医政局地域医療計画課)と答えた。イベントや外出自粛を押しつけながら、損失補償は出し渋る。「カネの削減ありき」のケチケチ路線は医療現場にも及んでいるのだ。

 小池都知事も同様だ。30日は接待を伴う酒場への入店自粛を要請。しかし、店への補償は「国が対策をベースでお決めになる」とゲタを預け、「都としてどのような上乗せができるのかを考えていきたい」と具体策ゼロだ。やはりドケチ路線の「毒」は医療現場にも回っている。

 先週、都立・公社病院の「地方独立行政法人化」を含む20年度予算が成立。既に全国で独法化された公立病院は、経営の効率化と採算性が強調されがち。緊急・小児・周産期・災害など不採算部門の診療科を担う「公的医療」の重大な後退も危ぶまれる。

「感染拡大防止で不自由な暮らしを強いられる中、行政が受け皿削減を推進するとは、とんでもない。財政難による予算削減で医療崩壊を招き、死者1万人強のイタリアの二の舞いとなりかねません。効率化優先の新自由主義に根差した医療費削減が、社会の抵抗力を奪い、コロナショックで手痛いシッペ返しを食らっている現実を直視すべきです」(社会保障に詳しい法大名誉教授の五十嵐仁氏=政治学)

 国や自治体がケチって医療崩壊なんて、まっぴら御免である。

公開日:2020/03/31 14:50 更新日:2020/03/31 14:57
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