新型コロナウイルスの感染拡大が、夜の繁華街の風景を一変させつつある。東京都による飲食店への営業時間の短縮要請が11日、始まった。店の多くは営業の期限となる午後8時近くになると一斉にシャッターをおろし、看板のネオンも消えていった。「仕方ないこと。でも、赤字は間違いない」。人通りがまばらになった通りで、飲食店主たちは悲鳴とあきらめの声をあげた。

「なぜ居酒屋が…」―東京・歌舞伎町
 酒類の提供ができなくなる午後7時。新宿・歌舞伎町にある居酒屋では数人の客が談笑していた。

 「これで最後にします」。男性客は時間を確認しながら、ビールがわずかに残ったジョッキを指さした。

 この日、他の客はほとんど訪れなかった。女性店主(85)によると、今後の営業は未定という。「要請は仕方がないと思うが、なぜ居酒屋が対象なのか、今もよく分からない」と戸惑いを口にした。

 午後8時前、店の看板の明かりが消えた。

 同区で「油そば」(汁無しラーメン)の専門店など3店舗を営む根本俊輔さん(35)は時間を短縮して営業を続ける。「閉めるより開けた方がまし、という程度だ」。協力金100万円を受け取っても、社員7人の社会保険や家賃などを考慮すると1カ月で消える。「潰れる店も大量に出るだろう」とため息をつく。

「補償あるべきだ」―横浜・千葉
 神奈川県は東京都に同調し、急きょ休業要請を行った。しかし、店舗への補償などは決まっておらず、店主からは不満の声が出る。

 例年は歓迎会などでにぎわうJR桜木町駅前は人の流れも途絶え、大半の店が臨時休業していた。

 同駅近くで営業する焼き肉チェーン店は要請に応じ、11日以降は午後8時に閉店することを決めている。「感染拡大を防ぐためには仕方ない」とオーナーの森下鎮生さん(45)は話すが、補償を伴わない時短要請には批判的だ。「時短を求めるなら、補償とセットであるべきだ。県の対応はおかしい」と語気を強める。

 東京都とは異なる形の支援を望む声もあった。中華街の一角で「龍鳳酒家」を営む梁瀬郁瑛さん(34)は「協力金は家賃で大部分が消える。家賃を猶予する仕組みを作るなど、飲食店側に寄り添った対策もあるのでは」と話した。

 千葉県では11日に休業要請が出されず、午後8時以降に営業を続ける店舗も目立った。

 市川市のJR本八幡駅近くにある飲食店「バル ブッキーヨ」。店長の石神智宏さん(47)は「お客さんがいればの話ですが」と前置きしながら、午前0時まで営業する予定だと明かす。

 同店は4月に入って客足が途絶え、一度に仕入れるチーズは半分に減らした。それでも売り上げは約8割落ちたという。「直接の要請がないのに閉めることは考えられないですよ」

 千葉県は11日になって休業要請も検討することを明らかにした。今後の動きは不透明だが、石神さんは「補償の有無で判断は変わる。国も県も姿勢を明確にしてほしい」と語った。

 営業を続ける居酒屋などが連なる通りを歩いていた市川市の宮崎加奈子さん(36)は「感染防止のためには店は閉めるべきだ。ただ、そのためにもきちんとした補償の方針が早く示されたらいいと思う」と話した。

「長期滞在者もいる」―ネットカフェ
 ネットカフェは休業要請の対象となっているが、長期滞在者を念頭に営業を続ける店舗もあり、対応は分かれる。

 450店以上を展開する快活フロンティア(横浜市)は東京都と神奈川県、埼玉県の102店で休業を決めた。担当者は「休業要請の職種に名指しされたことを重くみた」と説明する。

 一方、マンガ喫茶など50店を展開するマンボー(東京都)はホームページで「コロナ対策万全」をうたい、営業を続けている。担当者は「現時点では休業しない。滞在している人の存在も(休業しない)理由としてなきにしもあらずだ」と話した。【黒川晋史、李英浩、遠山和宏、斎藤文太郎】

毎日新聞2020年4月11日 21時31分(最終更新 4月11日 21時32分)
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