政府はコロナ対策経済政策を決定しました。ここに盛り込まれた政策には、公平性や不正利用の可能性、手続きなどの点から見て、大きな問題を含むものがあります。緊急時には、できるだけ一律に支給し、あとで審査するといった手法が必要です。

どうやって収入減を証明するのか
今回の経済対策では、新型コロナウイルスの感染拡大によって収入が減った世帯への現金給付が盛り込まれました。給付額を1世帯当たり30万円。給付金総額は3兆円規模に上るとみられます。

一律給付でなく、条件を付けて支給制限をした給付は、間違いなく不公平を生むでしょう。

第1に、コロナに感染したけれど所得制限で現金給付を受けられない世帯と、感染していないが別の理由で所得が減少した世帯と、どちらを助けるべきでしょうか。

第2に、わずかの差で条件を満たせなかった人は、大きな不満を持つに違いありません。

第3に、現実問題として不正行為が横行する可能性が強い。これが最も大きな問題です。

所得減の要件をどのように決め、どのように審査するかは極めて難しい課題です。現在の案ではこれが確保されていないので、著しく不公平な政策になります。

個人の所得を正確に把握できる官公庁は、税務署か税務事務所しかありません。しかし、現在の体制では、現金給付に必要な審査を行う余裕など到底ありません。

政府案では、現金給付を受給するには、収入減少を証明する書類を、住民が市町村の窓口に自ら申告することになっています。証明書類は、会社員なら給与明細書となります。つまり、受給のために必要な証明書類を、企業という私的な主体が発行できるのです。

そうなると、「収入減少」の証明は簡単です。悪徳経営者なら、この制度を次のように悪用できるでしょう。

まず、所得制限を満たす従業員の給与を減らします。従業員に現金給付を受け取らせて、その穴埋めをさせます。これだけで、巨額の収入が得られます。

例えば、月収20万円の従業員を雇う経営者は、従業員の給与を3カ月間、10万円に減らします。そして、「給与が30万円減少」という証明書を発行します。従業員は国から現金給付で30万円受け取るので、収入は不変です。こうして経営者は、給与を一人当たり30万円節約できるのです。100人の従業員がいれば、3000万円儲かります。

現金給付は、悪賢い者が濡れ手に粟で巨額の不正収入を得ることを可能にする制度です。3兆円の大部分は、このようにして消えるでしょう。

史上空前の不正財政支出となる可能性
注意していただきたいのですが、前出の数値例において、雇い主が給与を30万円減らし、その旨の収入減証明を発行するのは、形式的には不正ではありません。したがって、その証明書で現金給付を受けるのも、同様に不正ではないのです。

政府は減収証明書の偽造対策を講じるといいますが、上述の収入減証明書は、形式的にいえば、偽造ではありません。これにどう対処するつもりなのでしょうか。

いうまでもなく、これは実質的には著しく不当な受給です。政府には、収入減証明の不正発行と、それを用いた不正受給をどう防止するかを示す必要があります。そうしなければ、史上空前の不正財政支出となります。

条件付き現金給付は、困っている人や損害を受けた人を助けるのでなく、悪賢い人たちに不当な利益を与えるだけの制度になるのです。そして、この財源を納税者が負担します。

いまいちばん必要なのは、オーバーシュート(爆発的な患者急増)に備えて病床を整備することであり、それに向けた予算措置が求められます。しかし不正受給によって、そのための貴重な3兆円が消えてなくなるのです。

にもかかわらず、野党は現金給付に反対しないもようです。とにかくおカネがもらえるわけですから、反対すれば国民の支持を失うと考えるからでしょう。

しかし、事実は逆です。不当で不公平な給付が行われれば、国民の不満は爆発するでしょう。性善説に基づくしかないともいわれますが、これではあまりに無責任。問題を放棄するに等しいものです。

現金給付の不正受給を防ぐためには、将来、調査を行い、もし実態と異なる申告をしていたら、信じられないほど巨額の罰金を科す必要があります。それによる抑止効果を狙うしかありません。こうした措置は、絶対に必要です。

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2020/04/12 7:55
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