東京・渋谷で23年間、バーカウンターから人と街を見続けてきたワインバー「bar bossa(バールボッサ)」の店主、林伸次さん。新型コロナウイルスの影響で、店は休業を余儀なくされた。

リーマン・ショック、東日本大震災による経営危機を乗り切ってきた林さんも、今回のコロナショックはこれまでと全く違うタイプの不況だと焦りを隠さない。

「4月の売り上げはゼロ。それでも月末には支払いがやってくる。どうすればいいのか……」

経営者として、スピード感に欠ける行政の支援策にも歯がゆさを募らせる。

東京商工リサーチによると、新型コロナ関連の経営破たんは全国で78件(4月21日現在)。政府は4月の月例経済報告で、景気について「急速に悪化しており、極めて厳しい状況」との判断を示し、11年ぶりに「悪化」を用いた。
都内でも老舗弁当屋やフレンチ料理店、バーが廃業を決めたとのニュースが相次いでいる。

このままでは私たちの愛する店が姿を消し、街の灯が消えてしまうかもしれない。この先、街の景色はどうなってしまうのか。いま、どんな助けが必要なのか。酒とボサノヴァを愛し、渋谷を見守ってきたバーテンダーの叫びを聞いてほしい。(聞き手:吉川慧)

「奥渋谷の老舗バー」が休業を決断するまでの日々
銀座や浅草でインバウンド観光客が少なくなっているという報道が目立ち始めた、2月の後半ごろでしょうか。街の空気から「このままだと街もお店も危ないかもしれない」と感じました。渋谷でも外国人や観光客の姿が少なくなっていましたから。

この時点では、まだお店の営業にはさほど影響はなかったんです。うちのようなお店は常連さんが多いので。でも、3.11の経験から、飲食店が立ち行かなくなる前にできることをまとめて、まずはcakesでコラムを書きました。

3月中ごろまでは常連さんもたくさんいらっしゃってくださいました。リーマン・ショックのときもそうでしたが、「大変なときだからこそ」と。お客さまの間では「経済回そう」が合言葉になっていましたね。

それが3月後半になると、ガラッと状況が変わります。まず精神的に大きかったのが、3月29日にコメディアンの志村けんさんが亡くなったことでした。

誰もが知っている有名な方が亡くなったことで、今回の新型コロナウイルスの恐怖というものをみんなが身近に感じるきっかけになったと思います。街でも「コロナは本当に危ない病気なんだ……」と自覚し始めたという話を聞きました。

翌日(3月30日)の夜には、小池百合子都知事が緊急の記者会見を開いて、夜間の外出自粛を呼びかけられましたよね。このときバーやナイトクラブが疑わしい感染場所の事例として名指しされました。

「報告によりますと感染経路が不明な症例のうち夜間から早朝にかけて営業しているバー、そしてナイトクラブ、酒場など接客を伴います飲食業の場で感染したと疑われる事例が多発している」(小池知事:3月30日、記者会見で)

この日から、お店にはパッタリとお客様がいらっしゃらなくなりました。その週の週末(4月4日)からお店はずっと閉めています。

月末の支払いまで1週間しかない「家賃だけでも補償を…」

うちの店は「緊急事態宣言」(4月7日)の前に一時閉業を決めましたが、周りの経営者の間ではお店をどうしようかと悩んでいる方たちが今もたくさんいます。とにかく一番いま困っているのは、月末の支払いです。

お店を閉めても家賃はかかります。特に都心のお店は家賃が高く、月100万〜200万円ぐらいするところもある。仕入れ代の支払いもそうです。
飲食店は「掛売り」でまとめ買いしているところが多く、先月の仕入れ代の支払いが今月末にあります。支払いまであと1週間しかないんです。


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