新型コロナウイルス感染症で重症化する患者は「血液」に大きな問題が発生している可能性 - GIGAZINE 2020年04月24日 21時00分
https://gigazine.net/news/20200424-blood-clotting-explain-covid-19-severity/


世界中で猛威を振るう新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は全ての人が重症化するわけではなく、軽度の症状で済む人もいれば、中には無症状のまま感染したことにすら気づかず過ごしている人もいます。多くの研究者らがCOVID-19の症状について研究を進める中で、「血液の問題」が重症化する患者に広く見られることが指摘されています。

COVID-19の重症度リスクを高める要因としては、糖尿病や呼吸器疾患、心臓病、脳血管疾患、高血圧、慢性閉塞性肺疾患、腎臓疾患などが挙げられます。新たに医学誌のPhysiological Reviewsに掲載された研究結果は、体内の出血や出血性疾患がCOVID-19患者の主要な死因の1つである可能性を指摘しています。

テキサス大学ヘルス・サイエンス・センター・タイラー校(UTHCT)で細胞・分子生物学を研究するHong-Long Ji教授らの研究チームによると、体が血液の凝固を抑える抗凝血反応の機能亢進がCOVID-19患者の体内で過度の出血を引き起こし、機能不全をもたらしている可能性があるとのこと。

血液の凝固を妨げる線溶系は、凝固した血餅を取り除くために必要な機能です。血漿けっしょう中に存在する前駆体のプラスミノーゲンが活性化されてプラスミンとなり、血餅を形成するフィブリンを分解することによって、線溶系は血管中の血栓を取り除きます。

Ji教授らの研究チームは、重症化したCOVID-19患者の体内でフィブリン分解時の副産物が増加し、血小板が減少するといった変化が見られたことを指摘。糖尿病や心臓病、肺疾患、腎臓疾患などを患う人は多くの場合で高レベルのプラスミノーゲンおよびプラスミンを示すことから、COVID-19患者の体内で線溶系の過剰な機能亢進が発生し、複数の臓器で出血が引き起こされることで致命的な事態になる可能性があるそうです。

また、COVID-19の病状が深刻で入院することになった患者の97%で、フィブリンが分解されることで生産されるD-ダイマーという血中タンパク質の量が上昇しているとの研究結果もあります。特に急性呼吸窮迫症候群(ARDS)を発症するほど重症化したCOVID-19患者では、D-ダイマーの量が顕著に多いそうです。

一連の研究結果から、Ji教授らはD-ダイマーの量がCOVID-19の重症度と関連している可能性を指摘。「上昇したD-ダイマーの量が減少するまでの時間は、COVID-19の重症度に左右されます。一般的に軽度の患者であればD-ダイマーの量は1週間ほどで低下しますが、重症患者ではより長くなります」と研究チームは述べ、血中のプラスミンやD-ダイマーの量が、COVID-19の重症度を測る重要なバイオマーカーになるかもしれないと結論付けました。

血液の凝固を妨げる線溶系の過剰な機能亢進が報告される一方で、COVID-19患者では肺や皮膚の内側など、全身に血栓を有するケースも多く見られます。ニューヨーク州のワイル・コーネル・メディカル・カレッジに勤める血液専門医のJeffrey Laurence氏は、COVID-19患者に見られる血栓はこれまで知られていなかった大きな問題だと指摘。

Laurence氏と同僚たちは、COVID-19で死亡した2人の患者の肺で血餅を発見したほか、生存している3人の患者で手のひらや足を含む皮膚の内側に血餅を発見しました。また、オランダの(PDFファイル)研究ではCOVID-19でICUに入った184人の患者のうち31%で血液凝固の問題が見られたほか、中国の研究でも死亡したCOVID-19患者の71%で小さな血餅が確認されたことが報告されています。

一部の病院ではCOVID-19患者に対して高容量の抗凝固薬を投与し始めているそうですが、トロントのセント・マイケルズ病院で血液凝固について研究するMichelle Sholzberg氏は、抗凝固薬の投与は出血のリスクを高めると指摘。COVID-19患者における血液凝固のメカニズムと効果的な治療法を模索するため、臨床試験を行う必要があると主張しました。

COVID-19患者で血餅が急増している理由については不明ですが、1つの仮説としてウイルスが人間の体内で重度の炎症を起こし、免疫系が過剰反応している可能性が指摘されています。「炎症のシステムと血液凝固のシステムは非常に密接に関連しています」とSholzberg氏は述べましたが、依然としてCOVID-19患者と血餅の関連を理解するには時期尚早とのことです。