★欧州で強まる反中感情
2020年4月30日(木)17時31分
デービッド・ブレナン
https://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2020/04/post-93294.php

一部抜粋、全文はリンク先へ

<新型コロナウイルス感染爆発の弱みにつけ込み、マスクや防護服を送ってくる中国を欧州主要国は警戒を強めている。
インフラ建設の支援と見せかけて途上国を「債務の罠」に陥れたり、ユーロ危機でギリシャや中欧諸国に取り入った前科があるからだ>

EUは先週、中国が新型コロナウイルスに関する偽情報をソーシャルメディアで拡散した疑いがあるという報告書を発表したが、中国側はこれを即座に否定した。

中国は偽情報で被害を受けた側であり、流出元ではないと、中国外務省の耿爽(コン・ショアン)副報道局長は定例会見で述べた。

報道によれば、EUの報告書は中国の圧力で事前にかなりトーンダウンされたものだという。
だがパンデミック(世界的大流行)震源地の責任追及を逃れようと欧州の感染拡大地域に対して「マスク外交」を展開する中国に、EUが警戒感を高めていることは明らかだ。

ヨーロッパでは今、偽情報の拡散など中国の悪質な行動に対する警戒感と、それを防ぐ対策を求める声が高まっていると、
カーネギー国際平和財団の欧州プログラムを率いるエリク・ブラットバーグは本誌に語った。

「コロナ危機で中国に対する懐疑的な見方が強まりつつある。EUと中国の関係は緊張度を増しており、今後もギクシャクするだろう」

■「脱中国」は不可能だが

(略)

■投資協定の行方

中国の行動をどんなに警戒しても、「正気の人間なら誰も」中国を敵に回すようなことはしないと、欧州委員会の元顧問で、
現在はEUアジア・センターの所長を務めるフレイザー・キャメロンは本誌に語った。
「EUの経済的な繁栄は中国市場に大きく依存している。完全なデカップリング(切り離し)はあり得ない」

パンデミックが起きる以前、EUは中国と新投資協定に関する交渉を進めていた。
この協定は9月にドイツのライプチヒで開催されるEU首脳会議に中国の習近平(シー・チンピン)国家主席を招いて署名される予定だったが、
現状では会議が開催される見通しは立っていない。

交渉ではEU側は、知的財産権の保護や欧州企業の中国市場への公平な参入など、中国の投資環境の改善を強く求めていた。
中国側がこうした条件を受け入れれば、双方にとって、コロナ危機後の経済回復にプラスになるだろう。
だがブラッドバーグによれば、交渉成立は「既に非常に危うく」なっていた上、パンデミックでさらに遠のくことが予想される。

「9月までにまとめるのは難しいだろう」と、キャメロンも言う。

■救世主気取り

(略)

■欧州内にも親中国が

だがEU首脳は概ね、ドナルド・トランプ米大統領やマイク・ポンペオ米国務長官のようなあからさまな反中国発言は控えてきた。
トランプ政権はパンデミックの責任は中国にあると主張し、中国寄りだとして世界保健機関(WHO)も非難した。
これに対し中国側は、アメリカは危機対応の不手際から国民の目をそらすために中国を悪玉に仕立てているとやり返している。

EUも中国の意図を警戒しているが、それに対する対処法ではトランプ政権と一線を画す。

だが外交では、EUも一枚岩ではない。中部ヨーロッパやバルカン諸国は習政権に友好的で、中国マネーの流入を歓迎している。
ハンガリーやセルビアは、EUは頼りにならないとばかり、中国の医療支援に賛辞を惜しまない。

■中国懐疑派が増える一方

コロナ不況に直撃されれば、中国マネーの誘惑はさらに抗しがたくなる。それでなくともEU首脳の中には中国の権威主義に親和的な政治家もいる。

中国の統治システムや中国当局の言動は、時として欧米の自由民主主義に反するとしても、中国とは経済関係だけでなく、
国際秩序を維持するためにも協力関係を保ちたいと、多くのEU首脳は考えている。

世界が未曾有の経済危機に直面している今、手荒な「脱中国化」は取り返しのつかないダメージをもたらすだろう。
その一方で、EUが懸念してきた中国の覇権主義や権威主義が、コロナ危機をきっかけに、ますます目に余るようになったことも否めない。

「このところヨーロッパでは親中派がめっきり減った」と、ブラットバーグは言う。「中国懐疑派が増える一方だ」