敵はウイルスだけではなく「内なる感情」だ

巨大クライシスを乗り越えた後の世界の秩序や常識はどうなるのか──。ポストコロナの「ニューノーマル」(新常態)について、さまざまな予測、提言、議論がされているが、リーダーシップとコミュニケーションについて長年、研究してきた筆者が予言、いや期待する「ニューノーマル」は「女性リーダーと新世代リーダーの台頭と活躍」だ。
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ニュージーランド、台湾、ドイツ、フィンランド、デンマーク……。世界的に見て、このコロナ危機に上手に対処している国のリーダーに女性が多いということが話題になっている。こうした非常事態時には、力強さを体現する男性のほうが向いているのではないかという思い込みもあるが、なぜ、この未曽有の危機に女性リーダーが真価を発揮できるのか。その理由と女性リーダーの強みについて考えてみよう。

成功する女性リーダーは「カメレオンタイプ」

ニュージーランドのジャシンダ・アーダーン首相(39歳)。今回のコロナ危機では死者のいない段階でロックダウンを敢行するなど、迅速で的確な対応と人々の琴線に触れるコミュニケーションで、感染の抑え込みに成功、全世界から注目を集めている。

実は筆者は、昨年9月、とある仕事で彼女と直接会う機会があった。ニュージーランドから到着したばかりだという彼女だったが、印象に残ったのは、しっかりとカールされた髪、発色のいいルージュの口紅、ピンヒールというフェミニンないで立ちだ。一方で、かっちりとしたパンツスーツを着こなし、ロジカルで明快、熱量と勢いのある話し方など、柔らかさや優しさと、強さやカッコよさの絶妙なバランスを醸し出していた。

女性のリーダーとしてのスキルや才能は、男性と比べてまったく遜色はない。むしろ、優れている面も多い。しかし、政治、経済のリーダーの中での女性比率はまだまだ低く、とくに日本は男女平等度を示すジェンダーギャップ指数が153カ国中、121位という「女性活躍劣等国」である。

女性がリーダーになるためには数々の障壁と「ガラスの天井」があるわけだが、その中の1つに、「ダブルバインド」(二重拘束)というものがある。女性がコミュニケーションをするうえで、強い態度を見せる、例えば怒ったりすると「ヒステリック」「冷たい」と言われ、柔らかく、優しい態度を見せると「弱々しい」と批判されるというものだ。

だから、アメリカの大統領候補だったヒラリー・クリントン氏や立憲民主党の蓮舫氏のように、怒り、叫ぶ女性はことさらに、批判を浴びやすい(参考記事:「怒りながら叫ぶ女」はどうして嫌われるのか)。つまり、強すぎても弱すぎてもいけない、という非常に微妙なバランスを要求されるというわけだ。スタンフォード大学の研究では、最も成功する女性リーダーは「男性的特質と女性的特質を上手に使い分けるカメレオンタイプ」であると結論づけている。

女性らしさ、男性らしさといった言葉は好きではないが、ジェンダーの枠を超えて、強さと優しさをベストマッチした女性リーダーが成功するということであろう。

そういった視点で見ていくと、コロナ対策に成功しているといわれるニュージーランドのジャシンダ・アーダーン首相(39歳)、台湾の蔡英文総統(63歳)、ドイツのアンゲラ・メルケル首相(65歳)、フィンランドのサンナ・マリン首相(34歳)、アイスランドのカトリーン・ヤコブスドッティル首相(44歳)、ノルウェーのアンナ・ソールバルグ首相(59歳)、デンマークのメッテ・フレデリクセン首相(42歳)、すべてが、まさにこの資質を満たしていることがわかる。

彼女たちの的確な対応の要因の1つに、リスクに対するとらえ方が挙げられる。例えば、ニュージーランドのアーダーン首相は「We must go hard and go early(厳しく早く)」あるべきと唱え、断固たる処置を一刻も早くとるという姿勢を堅持してきた。ドイツのメルケル首相も、物理学者の経験を生かして「科学の声」に耳を傾け、徹底した検査と行動制限で感染者数の抑え込みに成功している。

男性のほうが女性より、リスクの高い行動に出やすいといわれるが、このコロナ問題についても、女性のほうが男性よりはるかに心配をし、予防行動に出ていることがわかっている。男性の中には、「男らしさ」とはウイルスという敵を恐れず、戦い抜くことで、外出しないという選択肢は負けを認めること、ととらえるマッチョな人も、ごく一部にいる。

続きはソース
2020年05月02日 
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