(前略)■「他の先生が使いこなせない」 「不公平になる」反対され断念

 「全生徒が参加できないと不公平になる」。北海道の公立中に勤める40代の女性教諭は休校中の4月、アプリを使った簡単なオンライン授業ができないかと提案したが、同僚からこう反対され、あきらめざるを得なかった。女性教諭は「生徒に何かをやってあげたいのに、できることから始めることがこんなにも困難なのかと思い知らされた」。

 中部地方の小学校教諭も、動画サイトのライブ機能を使った双方向授業をしたいと申し出たが、学校関係者に「学校の取り組みとしては認められない」「他の先生には使いこなせない」と止められた。教諭は「できない理由ばかりあげて、最初からやる気がないと感じた。今は非常事態なのに」と嘆く。

 文部科学省の4月16日時点の調査によると、休校中または休校予定の1213自治体のうち、デジタル教材を使うのは29%で、双方向型のオンライン指導をするのはわずか5%だった。

 公立校でオンライン授業がなかなか進まない背景には、教育現場でのICT(情報通信技術)の整備の遅れがある。文科省は10年以上前から地方交付税でのICTの導入を促してきたが、自治体の優先順位は高くなかった。2019年3月時点で、パソコンなど教育用コンピューター1台あたりの児童生徒数は全国平均で5・4人だ。

 ■端末購入後にも課題

 昨年末、小中学生に1人1台のパソコンやデジタル端末を整備する「GIGA(ギガ)スクール」構想を打ち出した同省は、一斉休校を受け、目標達成の時期を23年度から今年度中に前倒しすると決定。新型コロナ対策の補正予算に2292億円を盛り込んだ。自治体が端末などを購入する際に1台につき最大4万5千円を補助する。東京都も5日、休校中の小中学校に、オンライン学習の環境を整える予算84億円を計上した。

 だが、前倒しに戸惑う自治体も。端末は更新しなければ3〜4年で陳腐化するが、更新費用は自治体の負担になりかねない。端末への学習ソフトウェアの導入費やメンテナンス費が膨らむ恐れもある。全国市長会は4月、こうしたコストを含めて補助の対象にし、補助単価の上限の引き上げなどを求める提言を出した。

 全国規模で短期間にデジタル端末をそろえるのが難しい、という問題もある。新型コロナで需要が世界的に高まり、端末が市場になくなってきているからだ。

 さらに、使いこなす技術も必要になる。校内でICTの相談を一手に引き受けてきた首都圏の40代の男性教諭は、「ただ端末を配ればいいわけではない。端末のトラブルや更新の対応をする支援員の配置、教員や生徒らへの研修が不可欠だ」と話す。

 ■通信環境、セキュリティー問題あるけれど… 「できる範囲でまずつながることが大切」

 端末があっても、セキュリティーへの不安から生かし切れないケースもある。佐賀県武雄市は15年度までに、市立小中学校の児童生徒に1人1台の端末を完備した。だが、危険なサイトへのアクセスや情報流出などの懸念から、ネット接続は校内のみに制限。家庭で使うときにはネットにつながず、端末に入っているドリル学習などしかできない。4月下旬になり、モデル校の中学1校の3年生の端末にウイルス対策ソフトを入れ、各家庭でネットに接続させて使う試みを始めた。

 文科省は4月21日に出した通知で、平常時のルールにとらわれず、ICTの最大限の活用を自治体に求めた。23日には具体的な活用手段も連絡。「これらの取り組みに積極的な学校現場とそうでない現場との格差が広がることは適切ではない」と強調した。(中略)

 国際大グローバル・コミュニケーション・センターの豊福晋平准教授は「今の休校中に端末を全員分確保し、通信環境やセキュリティーまで整えるのは無理がある。スマホなどを活用し、できる範囲でまず子どもとつながることが大切だ」と指摘する。(西村悠輔、宮崎亮、宮坂麻子、土屋亮)

朝日新聞デジタル 2020年5月6日 5時00分
https://digital.asahi.com/articles/DA3S14466713.html