2020年5月23日 朝刊

 新型コロナウイルスの感染拡大でインターネットカフェなどが休業し、居場所を失った人に東京都がビジネスホテルを提供している救済事業。都は五月末の期限を延長する方針だが、ネットカフェへの休業要請が終了すれば、事業も終える方針だ。宿泊者の中には、その後の生活が見通せず不安を抱える人もいる。 (中村真暁)

 「ネカフェに戻るか、街を徘徊(はいかい)するか」。ホテルを出た後の生活を、男性(29)はそんなふうに思い浮かべながらつぶやいた。

 家族と折り合わず二〇一八年末に家を出て以来、飲食店などでバイトしながら、ネットカフェに泊まったりファミレスで朝を待ったりした。緊急事態宣言後は居場所がなくなり、バイトのシフトも減って月収は五万円に。数日間ほぼ食べずにいたとき、池袋の公園で「都がホテルを提供している」と人から聞き、今月十一日から利用を始めた。

 ただ、今後の不安はぬぐえない。生活保護の申請は、家族に照会されるならしたくない。「食べられないと歩くのも手足を動かすのもつらい。コロナよりその方がずっと怖い」と話すが、展望は見いだせていない。

 別の男性(50)は四月中旬から都内のホテルで過ごす。昨年末から民間施設を通じて生活保護を受け、施設の個室をあてがわれたが、生活保護費から食費や利用料が引かれ、手元には三万円が残るだけ。宗教関連の勉強会への参加も求められ、「生活も、精神的にも縛られて苦痛だった」。

 警備の仕事を見つけてネットカフェで寝泊まりしていたが、宣言後は公園で寝ることも。所持金が底をつく寸前で、支援団体の相談会で高血圧が判明。治療を受ける必要があり、ホテルに宿泊し、生活保護も申請した。今月中旬には団体の協力でアパートに入居。「初めて部屋を借り、自分の城だと感じた。しっかり体を治し、また働きたい」と話す。

 都によると二十日現在、延べ九百九十七人がホテルを利用している。ホテルの延長期間について関係者は「とりあえずは五月末から一週間程度の見込み。その後は、休業要請などを段階的に緩和する都のロードマップの進み具合に応じて延長するだろう」としている。

◆支援者「当面継続を」

 ホテル宿泊の期限を迎えた利用者に行き先はあるのか。NPO法人「TENOHASI」(東京都豊島区)の清野賢司事務局長によると、生活保護を受けても不動産店が営業を自粛していたり、契約時に携帯電話が必要とされたりして、アパート探しに難航している人もいる。

 雇用環境の悪化で所持金が減っている人も多く、清野さんは「次の身の振り方が決まるまで、ホテルに滞在できるようにすべきだ」と強調する。

 反貧困ネットワークの瀬戸大作事務局長は「災害時以上の非常事態の今、災害救助法に基づき、公営住宅や借り上げ住宅などを無料で提供すべきだ」と指摘。認定NPO法人「自立生活サポートセンター・もやい」(新宿区)の大西連理事長は「アパートに早期に移す支援が必要だが、なかなか移行できずにいる」。生活保護への抵抗感から利用できない人もいるとし、「貧困や生活困窮へのまなざしを社会全体で変えていく必要がある」と訴える。

https://www.tokyo-np.co.jp/article/national/list/202005/CK2020052302000139.html