人口減少や超低金利で地方銀行の経営環境が厳しさを増す中、政府は1日発足した十八親和銀行(長崎市)を地銀再編のモデルケースとしたい考えだ。菅義偉首相は地銀再編を地域経済の持続可能性を高める有効な手段と位置付けており、金融業界に働き掛けるなど合併や統合を後押しするとみられる。

 「数が多すぎる」。菅氏はかねて地銀についてこう発言。首相に就任すると麻生太郎金融担当相に再編を促す環境整備を進めるよう指示した。麻生氏も「現在のビジネスモデルの維持は難しい。持続可能な経営をしてもらえるよう改革を促す」と言明している。

 政府が再編に前向きな背景には、日銀の金融政策が銀行の収益環境を悪化させる中、この状態が続けば地域金融機関の「共倒れが起きかねない」との危機感がある。地銀の経営危機は地域経済を直撃しかねない。大矢恭好・全国地方銀行協会長(横浜銀行頭取)も「従来型の預金と貸し出しの金利差で稼ぐ業務はオーバーバンキング(銀行数が多すぎる)。再編も選択肢の一つだ」と政府と認識を共有する。

 十八銀行と親和銀行の合併は、その先行例とも言える。合併の際に重要な役割を担ったのが、ほかならぬ菅氏だった。

 合併を巡っては長崎県内での貸出金シェアの高まりを懸念した公正取引委員会の審査が長期化。菅氏は事態打開のため、官房長官として地域金融の在り方を競争政策も含め政府全体で議論する方針を表明した。これを受け、今年5月に地銀同士の統合・合併を独占禁止法の適用除外とする特例法が成立した。

 特例法が追い風となる形で、青森県を地盤とする青森銀行とみちのく銀行は経営統合に向けた水面下の協議に入った。菅政権にとって地銀再編はデジタル庁創設や携帯電話料金の引き下げに並ぶ重要課題。成果を急ぎたい政府の意向に押される形で、同一県内で統合を目指す動きが広がる可能性がある。

 ただ、地銀の統合や再編は人員や店舗の削減が避けられず、貸出金利や顧客の利便性、雇用などに影響が及ぶ懸念もある。十八親和銀が「成功モデル」になれるかは発足後の経営次第。地域の新たな金融秩序がどうなるか、地元の厳しい目が注がれることになる。 (下村ゆかり)

西日本新聞2020/10/2 6:00
https://www.nishinippon.co.jp/item/n/650356/