菅義偉首相は日本学術会議が推薦した会員候補105人のうち6人を任命しなかった。政府に批判的な学者が外されたとも言われるが、任命された99人の中にも「安全保障関連法に反対する学者の会」の声明に署名した人が少なくとも10人いる。取材に応じた学者は、任命拒否の対象にならなかったものの、萎縮効果を狙うかのような政治の介入に危機感を示した。拒否された6人について「目立った人が狙われたのか」という指摘もあった。(土門哲雄、奥野斐、神谷円香)

◆「政治権力が学問に介入すること許されない」
 東京大の勝野正章かつのまさあき教授(教育行政学)は「当然会員にも、科学そのものにもいろいろな考えがある」と会議の多様性を重視。「政治的な権力が学問に入るのは許されない。社会のあらゆるところに波及する問題」と批判し「著名な方、社会的活動の顕著な方を外している。見せしめというか恐喝では」と心配する。
 京都女子大の南野佳代みなみのかよ教授(ジェンダー法学)は「任命しない理由は判断をした側にしか分からない。任命されなかった側に原因を求めるのは、いじめや性暴力の被害者に原因を求める2次加害の構造にも似て居心地の悪さを感じる」と話す。
 自身が所属する法学委員会は、任命されていない3人が欠員の状態で現在は11人。「法学といえど幅広く、それぞれの専門性を生かして研究する。本来入るべき研究者がいないことは、その専門的観点の議論ができないということ」と影響を懸念する。

◆イエスマンばかりだとクオリティー下がる
 早稲田大の野口晴子教授(医療経済学)は「政府から確たる説明がない現状で客観的評価を下すことはできない」と前置きしつつ、「研究に関しては、批判があってこそ、質が改善されていく。イエスマンばかりを周囲に置いておくと、絶対にクオリティーが下がってしまう。政策、政治についても同じことが言えると思う」と指摘。
 その上で「政府が間違った政策を行った場合、研究者は科学的知見、実証によって反論する必要がある。適切にデータを収集し、精度の高い統計手法で分析し反論することが最も効果的だと思う。データは決して忖度そんたくしない」と言及した。

◆「任命拒否するなら理由や法的根拠を」
 慶応義塾大の三尾 裕子みおゆうこ教授(文化人類学)は「推薦した人にどんな要素があると学術会議の総合的、俯瞰ふかん的活動が確保できなくなるのか」と首をひねる。
 「首相が任命を拒否するなら、明確な理由や法的根拠が示されるべきだ」と話し、仮に政府に批判的なことが理由だとすれば、「そのような基準で任命の妥当性を決めるのはおかしい。その人の主義主張は関係がないはず」と指摘する。
 「多様な意見の人たちが知恵を出し合うことで、より妥当な判断が導かれる。権力者たちのご意向に沿う人たちだけの集団であっては、むしろまずいのではないかと思う」と懸念した。

東京新聞 2020年10月11日 05時50分
https://www.tokyo-np.co.jp/article/61138