(中略)池袋で発生した暴走事故。初公判の模様がニュースで流れると、被告人に対する世間からのバッシングがいっせいに始まりました。その理由は、(中略)全面的に無罪を争う姿勢を示したことにありました。
(中略)被告が主張する「走行制御システムの異常」とは、該当車種にみられる欠陥なのか? 
(中略)

■ある死亡事故の「加害者」から届いた手紙
(中略)初公判のニュースを見たとき、過去に取材した事故のことを思い返していました。
(中略)
 3人を死傷させ、自らも頚髄損傷で重度障害を負うというこの事故は、1996年5月9日午後9時35分頃、熊本県のT字路で発生しました。
 タクシー運転手のOさん(当時46)が、急な下り坂を走行中、思わぬ事態が発生しました。
 信号が赤にもかかわらず、車を停止させることができず、速度が出たまま交差点に進入し、次の瞬間、T字路の右側から走行してきた軽自動車の左側面にまともに衝突してしまったのです。

「私は下り坂に差し掛かったとき、いつものようにセカンドギアに入れ、エンジンブレーキとフットブレーキを使いながら停止線で止まるつもりでした。ブレーキペダルを2度、力いっぱい踏みました。しかし、瞬時にスーッと抵抗力がなくなり、下りで加速したまま交差点内に進入してしまったのです。」
 常務歴16年。無事故で安全運転を続けてきたOさん(中略)

■10日前にも同型車が踏切で死亡事故。原因はエンストによるブレーキロックか?
 実は、同じ会社の同型のタクシーが、警報機の鳴っている踏切に突っ込んで列車と衝突し、運転手も乗客も即死するという大事故が起こったばかりでした。
(中略)
「とにかく今回のトヨタ・コンフォート2000cc(マニュアル・LPG車)のように、走行中にたびたびエンストする車は初めてでした。おそらくエンストをして、その後にブレーキロックを発したことによって、瞬時に真空エアを使い切ってしまったのではないかと思うのです。つまり、停止したくてもブレーキが利かないということです」

 実際に、Oさん自身も、納車後からわずか2ヶ月の間に4回ものエンストがあったので、ディーラーで2度、ガス調整をしてもらっていました。
 踏切で亡くなった同僚も、同じく事故前に数回のエンストトラブルを起こし、同じディーラーに見てもらっていたというのです。
「(中略)エンストするとブレーキが効きにくくなるから怖いなあ、という思いで乗っていたのは事実でした。結果的に5回目のエンストが、今回の大事故につながったのです……」(中略)

 しかし、警察は、Oさんのこの主張を受け入れようとはしませんでした。「警察は最初から、私の全面的な過失で起こった事故だと決めつけて処理したかったようです。私がエンストの話をしようとすると、『お前の責任逃れの弁明など聞けん!』と何度も怒鳴られました」

 しばらくして、陸運支局から戻ってきた「鑑定書」には、
ブレーキ装置、アクセル装置の異常なし、その他参考事項特になし、と記されていました。簡単に回答してきただけの鑑定書に、Oさんは疑問を感じたと言います。

「(中略)もう一度エンストのことを話そうとすると警察官に、『そんなに言うなら、トヨタを相手に裁判でもおこすか?』『過失を認めないなら、交通刑務所に入れてやろうか?』と強い言葉で詰め寄ってこられたのです」
Oさんは反論する気力を失いました。
(中略)

供述調書には、以下のように記録されていました。

<この事故は、(中略)ブレーキとアクセルを踏み違え、アクセルペダルを踏んだことに間違いありません>

(中略)事故から1年後、有罪判決を受けたのです。

■警察も検察も、裁判官も、誰も耳を傾けてはくれなかった
 重い障害が残り、車の運転ができなくなったOさんは、仕事を失いました。しかし、加害者の立場であるOさんには十分な保険金は下りず、たちまち困窮します。
(中略)
 事故を記事にしたところ、メーカーやディーラーの関係者から詳細な情報が複数寄せられました。
 それは、『走行中のエンストが後を絶たなかった』という内容です。実際に『自動車工学』という雑誌には、『低すぎるアイドル回転』という見出しの記事が掲載され、アイドル回転時にステアリング操作するとエンストするトラブルが多発していることが明記されていました。(中略)

■真の原因究明こそが、再発防止につながる
 もし、「車」に不具合があったのなら、それを早く突き止め、改善することで次の事故を防ぐことができるはずです。
(中略)
 
※全文はソース元へ
https://news.yahoo.co.jp/byline/yanagiharamika/20201016-00203151/