新型コロナウイルスの影響で経済的に困窮し、医療機関の受診に困難を伴う患者が37都道府県で少なくとも255人に上ることが30日、全日本民主医療機関連合会(民医連・東京)の実態調査で判明した。うち66人は受診を控え、23人は症状が悪化。民医連は「把握できているのは氷山の一角にすぎない」と警鐘を鳴らしている。


 民医連加盟の医療機関や福祉施設など全国の1772事業所を対象に、コロナ感染が確認され始めた2月以降の患者らの状況を照会し、727人に関する回答を得た。

 うち歯科を含む病院や診療所などの医療機関(照会先706事業所)は、255人が失業や減収で通院費が払えなかったり、負担が増したりしていると報告。最多は東京都の42人。九州各県では福岡6人、佐賀、熊本、宮崎各2人、長崎、鹿児島各1人、大分県では確認できなかった。

 年代別は50代が3割近くを占め、40代、60代、70代の順に多かった。

 新型コロナウイルスによる困窮で通院負担が増し、受診控えが相次ぐ現状を医療関係者は憂慮する。医療機関によっては、困っている人を対象に無料か低額な費用で診察する「無料低額診療事業」を行っており、利用を呼び掛けている。

 「突然、顔を見せなくなる人が増えた」。公益社団法人福岡医療団の千代診療所(福岡市博多区)の西山真希子事務長(42)は顔を曇らせる。4月以降、生活習慣病などの通院患者が減っているという。

 同診療所は、重症化しやすい患者が通院を控えた場合、看護師らが自宅訪問し受診を促してきた。4月以降は毎月5〜6件で例年より倍増。「治療費の支払いが大変」という声が目立つという。医療費の相談(3〜8月)も前年同期比32件増の360件に上る。

 5月には訪問先の呼吸器疾患のある60代男性が呼吸不全になっているのを見つけ、男性は救急搬送された。別の糖尿病の男性は7月に会社を解雇されて以降、受診は1度だけで病状は悪化。入院を勧めるが「もう死ぬからいい」と自暴自棄になり応じないという。

 同診療所は社会福祉法に基づく無料低額診療を実施してきた。診療所側が診療費の10%〜全額を負担する慈善事業で、収入が生活保護基準の約150%以下の世帯などが対象。4〜7月の利用者は197人で前年から24人増えた。

 高血圧症のタクシー運転手の男性(72)は3月で解雇され、月約2千円の通院費が重かった。6月に男性の境遇を知った医師に無料低額診療につないでもらい、無収入となった4月にさかのぼって費用が半額になった。男性は通院を続け、7月にアルバイトで復職。月収は8万〜9万円と半減したが「千円の支援が大きい。ありがたい」と話す。

 コロナ感染を懸念した受診控えもあり診療所経営は厳しさを増すが、西山事務長は「経営に関係なく必要で続ける」と話す。九州7県で計79の医療機関が無料低額診療事業を担い、県のホームページなどで確認できる。

(大坪拓也)

西日本新聞 2020/10/31 6:02
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