新型コロナウイルスは遺伝子が変異したことで人の細胞への感染力が増し、飛沫ひまつ感染しやすくなったことを動物実験で確かめたと、東京大などが12日発表した。一方で、症状を重くするような病原性の変化は起きていないという。成果は米科学誌「サイエンス」電子版に掲載された。

◆細胞侵入能力8倍に
 ウイルスは増殖の際に遺伝子のコピーミスが起きる。新型コロナウイルスでは遺伝物質RNAが1カ所変化する「D614G」という変異が発生し、表面のタンパク質の構造がわずかに変わったものが現れていた。現在日本を含め世界中で流行しているウイルスはこの変異型が大半を占める一方、この変異によってウイルスの性質がどう変わるかの詳細な研究はなかった。
 東京大医科学研究所の河岡義裕教授や米ノースカロライナ大などの研究グループは、従来型と変異型のウイルスを感染させたハムスター各8匹を、1匹ずつ別のおりに入れた。それぞれのおりから5センチ離したおりに未感染のハムスターを入れたところ、2日後には変異型の横にいた8匹のうち5匹が感染した。一方、従来型は1匹も感染がみられなかった。4日たつと、従来型、変異型とも全ペアで感染が起きたものの、変異型では早く飛沫感染が起きており、伝搬しやすいことが分かった。
 試験管内の実験では、変異型の方が従来型より人の細胞に入る能力が3〜8倍高かった。グループでは「変異型が非常に短期間で従来のウイルスを凌駕りょうがして広がったことを説明づける」としている。

◆症状には差なく、ワクチンも効果
 一方で、どちらの型に感染したハムスターも肺炎の重さに差がなかった。また、感染して回復した人からとった抗体を、二つの型のウイルスに反応させたところ差は見られず、従来型をもとに開発したワクチンでも、変異型に対して同じ効果が期待できるという。
 河岡教授は「新型コロナは人から人への感染が非常に多く繰り返されているので、その分、性質が変わるような変異が起きる可能性は高くなる。ワクチンが効かなくなる変異が起きるかどうかは分からない」と指摘している。(森耕一)

東京新聞 2020年11月13日 04時00分
https://www.tokyo-np.co.jp/article/68049