インド・ベンガルールの企業の社屋(2019年7月31日撮影、資料写真)
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【AFP=時事】あるインド企業の広報担当幹部で、業界賞も受賞したことのあるスネハプー・パダバターンさん(35、仮名)は、出世の階段を駆け上がるべき人材だが、たった一つだけ問題があった。ヒンズー教の身分制度であるカーストで、パダバターンさんはダリット(Dalit)と呼ばれる最下層に属している。

 南部チェンナイ(Chennai)在住のパダバターンさんは、どこへ行っても付いて回る差別から逃れるために仕方なく転職を繰り返し、ストレス性の健康問題と闘っている。

 インドの人口13億人のうち6分の1を構成するダリットは、先祖代々社会的地位が低いために日ごろから暴力や虐待にさらされている。

 現大統領のラム・ナート・コビント(Ram Nath Kovind)氏やインド憲法起草者の故B・R・アンベードカル(B.R. Ambedkar)はダリットだが、今も企業社会にはカーストに付随する偏見がはびこっていると、研究者や人権活動家、企業の人事担当者らは明かす。

 何百年も続くカーストの弊害は、米シリコンバレー(Silicon Valley)にも及んでいる。米通信機器大手シスコシステムズ(Cisco Systems)はカーストに基づく差別があったとして、訴訟を起こされている。

 コミュニケーション学の修士号を持つパダバターンさんは2008年、国内で最も歴史あるコングロマリット(複合企業)の1社に入社。出世コースに乗ったように見えた。

 しかし、パダバターンさんがかつて「不可触民」といわれたダリットだと気付くや否や、上位カーストの同僚らによるあざけりが始まったという。

「インドはカーストと共に生きている。自分が気付くかどうかにかかわらず、カーストは誕生と同時に付いて回る」とパダバターンさんはAFPに語った。フォークを落としたことで先輩から「百姓」とからかわれ、伝統的に菜食主義が多い上位カースト、ブラフミン(バラモン)の同僚たちからは牛肉を食べることを非難された。

■上位カーストの支配

 上位カーストほど純潔だとみなす考えは、宗教的儀式や食習慣、差別的慣習を通じて長い間、ヒンズー教の中核を成してきた。ダリットは寺院や学校への立ち入りを禁止され、ごみ処理など「不浄な」仕事に就くことを強要されてきた。

 経済的機会における上位カーストの支配はいまだ根強い。2009年にインドと米国の研究者らが行った採用実験では、上位カーストの姓を持つ応募者は、ダリットの2倍近く面接に呼ばれる可能性が高いという結果が出た。

 カナダに拠点を置く研究者らが2012年に実施した調査では、インドの上位1000社の役員のうち93%が、人口全体では15%に満たない上位カーストに属することが明らかになった。

 さらに昨年の米国の調査では、インドの主要企業4005社の管理職約3万5000人のうち、ダリットなど下層カースト出身者はわずか3人だった。

 多国籍企業でさえ同じ問題を抱えていると、インドとフランスに拠点を持つソーシャルメディアのスマッシュボード(Smashboard)でカースト制に関する相談役を務めるクリスティーナ・ダナラージ(Christina Dhanaraj)氏は言う。

「こうした企業における多様性や包括性は、外国からの観点からしか語られないことが問題だ」とAFPに語った。

 多国籍企業は「ジェンダーと性のあり方には着目するが、カーストには着目しない」と指摘する。

 ダリットの多くは報復を恐れ、声を上げることをためらっている。AFP取材陣はダリットの有職者への取材を試みたが、ほぼ全員に断られた。

12/6(日) 9:03配信
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