日本農業新聞
 北海道で消費・加工される小麦を外国産から道産に切り替える「麦チェン」運動が、大きな成果を上げている。道産を使った商品を積極的に製造・販売する「麦チェンサポーター店」は年々増えて300店を突破。道産使用率も5割に達した。新型コロナウイルス禍で食料自給率向上や地産地消に関心が集まる中、運動の先駆け、十勝地方でさらに機運が高まっている。(尾原浩子)

地元パン店が率先 農家も“意識改革”

 道産小麦は主に大消費地に出荷してきた。農家は自身が育てた小麦を食べたことがない状況が長年続いていたが、今では地産地消にこだわるパン店などが道内に増加。日本一の小麦産地、十勝地方に店舗を持つ「満寿屋商店」は、年間800トンの地元産小麦を使う地産地消の先駆けをつくったパン店だ。

 年間売り上げ10億円を超し、帯広市や東京都内など8店舗を経営する。1950年の創業当時は小さな店だった。小麦畑が広がる十勝に店を構えているのに、使うのは外国産。2代目の社長が「十勝にはこんなに小麦があるのに、どうして輸入小麦を使わなくてはいけないんだ」と疑問を抱いた。

 十勝で栽培する小麦は麺用が大半だったが、87年にパン用の春まき品種「ハルユタカ」が品種登録されたことが大きな転機となった。

 同社は当初試験的に「ハルユタカ」のパンを作ったが、そのおいしさと珍しさが受け、地元の農家からも「自ら作った小麦を地元で食べられる」と喜びの声が上がった。

 4代目社長の杉山雅則さん(44)は「大農業地帯の十勝は、地産地消への意識が低かった。でも『自分たちが食べないものを売り出していいのか』という農家の本来の思いが、十勝産小麦を使う動きにつながった」と明かす。

 2009年には帯広市に十勝産小麦100%のパンを扱う新店舗「麦音(むぎおと)」を開店。道農業研究センターが開発に成功した「ゆめちから」などの普及も後押しし、現在は全店舗で十勝産小麦100%を実現した。

 小麦など120ヘクタールで畑作経営をする本別町の「前田農産食品」代表、前田茂雄さん(46)は「麦は大規模に流通させることが重要だった。だが、食べる人に思いをはせ、誇りを持って作ることが本来の農業の姿なんだということを、杉山さんとの出会いで気付かされた」という。

 前田さんは規模拡大を進める一方で、畑に人を呼び込むなど消費者とつながる農業に励む。自分で作った小麦のパンを食べた感動が原点になったという。

自給率の課題 考える糸口に
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