科学、技術、工学、アート、数学を複合的に学ぶ「STEAM(スティーム)」。
複合的な学習を通して、子どもたちは「知る」と「創る」を循環させ、受動的ではなく自ら学んでいく。
明治以来つづいた「教師が一斉に教える」教育が変革期をむかえている。AERA 2021年2月1日号は、STEAM教育を導入する中高一貫校を取材した。

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 STEAM自体は新しい概念だが、日本でもSTEAM型の学びを以前から取り入れてきた学校がある。
英数国理社以外の音楽や美術、技術・家庭などにも力を入れる「全科目重視型」の学校で、
麻布、桜蔭、開成、女子学院など難関私立中高一貫校にその傾向が強い──そう指摘するのは、日能研グループの情報誌「進学レーダー」編集長の井上修さんだ。

 開成中では以前から1、2年でピアノ、3年でギターが必修。和音や転調など曲の構成理解に重きを置き、最終的には全員自分で作曲した曲を弾く。

「早稲田中も1人1台のピアノで充実した指導を行っています。音楽は数学との親和性が高く、開成、早稲田ともに数学教育も盛ん。
また美術は『伝える』といったプレゼンテーションスキルを高めることにもつながります。
音楽や美術は、他の教科とのブリッジとしての役割も大きく、音楽の中で社会や英語を、美術の中で理科や社会、数学を学ぶといったことも行われています」(井上さん)

 美術大や音楽大など首都圏の芸術系大学への現役合格実績が高い高校をまとめた。
ランクインしている学校の中で井上さんがSTEAM型の教育で注目するのは、吉祥女子、明星学園、鴎友学園女子など。
ランキングにはないが、自由の森学園(埼玉)や聖学院(東京)もバランスの取れた教育が特徴だという。

 20年度の武蔵野美術大の合格者数が23人で日本一の吉祥女子は、どのような教育をしているのか。杉野荘介広報部長が説明する。

「本校では美術や音楽の授業を中学生対象でも、美大・音大受験に精通した教員が担当します。
また習い事の感覚で希望者が放課後に受講できる芸術系の講座に参加する生徒も多いですね。
そういう意味で、学校全体に豊かな芸術的土壌があるのは確かです。日常の中で養った表現力が爆発するのが文化祭。活気にあふれ、例年2日間で約1万3千人が訪れます」

■教師はいっさい教えず

 同校は表立ってSTEAM教育を謳っているわけではないが、カリキュラムからは「知る」と「創る」の循環も見て取れる。
例えば高2で芸術系の進路を選択した生徒が取り組む「子どものための遊具制作プロジェクト」。
頭で「子ども」を想像するのではなく、実際に幼稚園児と触れ合い身体測定をするところからプロジェクトは始まる。
その後は、材料は段ボール14枚と木工用接着剤とテープだけという厳しい制約の中で模型作りにとりかかる。グループごとにどんな仕掛けで子どもたちを喜ばせるか、アイデアを話し合いプレゼンする。

「教師はいっさい手順を教えず、全部自分たちで考えさせます。試行錯誤を繰り返すうちに、生徒は自身のこだわりや特性がどこにあるのかにも気づいていきます」(杉野さん)

 これだ!と思ったデザインが、実際に作ってみると機能的でなかったなど、生徒は多くの壁にぶつかる。
だが「自分のためではなく誰かのために作るのは、デザインの仕事そのもの」「ゼロから創るのは他の授業では味わえないワクワクがある」と目を輝かせて取り組む。
最終日には幼稚園児を迎えて実際に遊んでもらう。子どもたちが張り切りすぎて、遊具が壊れてしまうハプニングもある。
そんな反応を目の当たりにしながら、デザインの本質を学んでいく。

 進学レーダーの井上さんは、STEAM教育が、従来の難関校や伝統的に芸術教育に力を入れてきた一部の学校から、
中高一貫校全体に広がってきていると指摘する。中高で多面的な学びをしていると、芸術系に進学しなくても、大学での学際的な学びにスムーズに入っていけるメリットもある。

「STEAMで忘れてはならないのは『結果として役立つからやる』のではなく、『面白いからやる』というのが原点だということです」(井上さん)

(編集部・石臥薫子)
https://news.yahoo.co.jp/articles/761e19d5b0805ca23157387992e247645e7ad156