【香港時事】英政府は31日から、香港に住む「英海外市民(BNO)旅券」保持者らに英市民権を与える道を開く特別ビザの申請を受け付ける。政治や言論面での圧力が強まる香港から、今後5年間で最大100万人が移住するとの予想もある。

 中国外務省の趙立堅副報道局長は29日の記者会見で「強烈な憤慨と断固とした反対」を表明。31日からBNO旅券を正式な旅券や身分証明として承認せず、「さらなる措置を取る権利を留保する」と述べた。
 市民は香港特別行政区が発行する旅券も持てるため、実際の出入境時に支障が生じることはほぼないとみられる。ただ、香港では、英移住者の中国国籍や香港永住権の剥奪の可能性が取り沙汰されており、3月の全国人民代表大会(全人代)で何らかの決定が下されるとの報道もある。
 香港の旧宗主国である英国は昨年、中国政府が香港統制を強化する国家安全維持法(国安法)への対抗措置として、今回の受け入れ拡大策を打ち出した。特別ビザでは英国での就業や就学、国民保険サービス(NHS)の利用が可能だ。5年間の滞在で永住権、さらに1年後には市民権の取得手続きができる。
 特別ビザ発給の根拠となるBNO旅券は、1997年の香港返還前に生まれた人に与えられるもので、約290万人が所持資格を持つ。特別ビザは旅券保持者の家族も申請できるため、約750万の香港人口の7割超の約540万人がビザ取得権を持つことになる。
 香港メディアによると、英政府は2025年までの香港から英国への移住者数を三つのレベルで試算。最少で9000人超、最も可能性が高い中程度で32万人超、最多で約105万人の移民が生じるとみている。
 昨年6月末の国安法施行を機に、元立法会(議会)議員の羅冠聡氏ら複数の民主活動家が香港を脱出。中国共産党政権に批判的なメディア創業者・黎智英氏ら著名民主派の逮捕も相次ぎ、香港を見限る動きは加速している。BNO旅券の発行数は19年の反政府デモをきっかけに急増したが、20年1〜11月にはさらに19年通年の8割増となった。
 市民からは慎重な声も上がる。民主派支持者のフリーランス女性(24)はBNO旅券保持者だが、現時点で移民は考えていない。香港にとどまれば「自由の追求」が課題となるが、見知らぬ土地への移住を選べば、自由以前に仕事や住居の問題など生存自体に困難が伴うと懸念しており、「逮捕でもされない限り香港を離れたくない」と語る。IT関係の男性(27)は「経済状況や配偶者の意向など、考慮すべき要素は多い。(移住するかどうかは)結婚するまでに決める」と答えた。

https://www.jiji.com/jc/article?k=2021012901001