(川松 真一朗  東京都議会議員)
(中略)
ただ、私はどうしてもこの風潮に違和感がある。当然、発言があった事は間違いない。それに対して、森会長が女性蔑視のつもりはないと語っている。
ところが、今のワイドショー文化では朝から晩まで一様に森会長批判を重ねて、ネットやSNSでも批判が増幅して広がっている。
たまに、森会長擁護の方が出てきているが、それはこの発言の是非ではなく、これまでの森会長の功績に触れているだけだ。

つまり、森会長の賛否両論が展開されている中身をじっくりと見てみると「賛成派・反対派」が同じ土俵で戦ってない。
だから、一向に解決策が見えてこない。その解決策が森会長の退任でいいのか。それが日本や東京にとって良い事なのか、冷静に考えるべきではないだろうか。

┃「たたかれる側の象徴」として前面に立ってきた

実際に、擁護派の方々の中で、大多数は「沈黙派」である。
私が電話で話す限りは「森会長は余人をもって代えがたい」と語るも、公の場で語る事はない。
私は、この様子に先行きの不安を抱えている。これまで東京大会はザハ案国立競技場建設問題、
小池知事による五輪会場計画変更提案など、五輪をめぐっての多くの課題に向き合ってきた。

その都度、たたかれる側の象徴として前面に立ってきたのが森会長だ。その後ろには、大多数の関係者がいた。

(中略)
つまり、何を言いたいかというと、東京大会開催の最大局面をこれから迎えるに当たって、大きな懸念があるということだ。
「やるも」「やらないも」「どんな形でも」相当に追い詰められた状況になるのが東京大会だ。
開催反対論者は「即刻中止」を主張する。そうなれば、IOCから東京が受け取る860億円の分担金が無くなるし、見込んでいたスポンサー収入も満額はあり得ない。
ところが、支出面をみると大規模な大会整備は終わっているわけで、入りが減っても出は減らない。そういう議論はないがしろにされている。

私も当然、コロナ禍で「何を考えているんだ!!」と有権者から怒りをぶつけられる事も多々ある。
まずは日本国民の皆さまの「安全安心」は担保された上での準備であるのは当然であるのに、その前提は報じられない。いわんや、開催方向をや。

┃森会長の状況は弁慶の立ち往生のようだ

私はこういった究極の判断、局面を迎える時に、誰が矢面に立てるのだろうかと考えている。
これまで、多くの与野党政治家やスポーツ界関係者が森会長を「弾よけ」にしてさまざまな事業を進めてきた。
それにもかかわらず、その森会長が苦境に立たされている場面で誰も表に出てこない。

このフワッとした世の雰囲気に、自分では何もやらない方ばかりの社会風潮。
マスコミも一方通行な批判しかしない社会では、常にフワッとした空気に流されるだけで、私は本質的な日本社会を変えられないのではないかと危惧する。

┃「森会長の人柄」も実名で堂々と語ればいい

私が知る限り、森会長は常に新聞など報道には目を通される。だからこそ、今、ご自身が置かれている状況を誰よりも理解されているはずである。
今まで、森会長の陰に隠れていた人たちだって近くにいれば皆分かるはずだ
。関係者談で漏れ伝わってくる「森会長の人柄」も実名で堂々と語ればいいじゃないかと思う私はバカなのかもしれない。
しかし、真実を黙っている事で、東京や日本が間違った方向に進むなら黙っていられない。

┃今も人工透析を受けながら、命をかけて大会に取り組んできた
私は「女性蔑視の是正」も「人権尊重」もオリンピック開催には必要不可欠な要素であり、森会長の発言を有耶無耶にしてはいけないと考えている。
ただし、総合的に判断する会長職はそれとは別である事も指摘したい。

森会長は、会長就任時も他に適任者がいるはずだと当初は固辞されていた。
それから、肺がんを患い2015年3月に肺を除去され病院からつえをついて組織委員会に通われ、今もまだ定期的に人工透析を受けておられる。
それでも、ご自身の大会への責任を誰よりも重く受け止め、職務に邁進されてきた。
(中略)
┃裏方として地道に協議・交渉を重ねてきたのが森会長
森会長は、これまで16年オリンピック・パラリンピック招致や19年ラグビーワールドカップなどの交渉事を通して、
IOC重鎮やスポーツ界のインフルエンサーと信頼関係を築いてきた。19年大会では、
世界からの要人たちがセレモニーで常に「Mr.Mori」への感謝を口にされていたのをよく覚えている。

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https://president.jp/articles/-/43218