新型コロナウイルスのワクチンの先行接種が2月17日、日本でもようやく始まった。
ワクチンは米ファイザーなど欧米3社が開発したもので、すべて輸入品だ。その調達費用は約6700億円にも上る。

 国内メーカーも開発を進めているが、まだ実用化は見えていない。なぜ日本はワクチン開発で出遅れたのか。

■海外メーカーには「太刀打ちできない」

 日本で今回、接種されるワクチンはファイザーのほか、米モデルナ、英アストラゼネカの3社製。
いずれも遺伝子技術を使った世界初の「遺伝子ワクチン」で、ファイザー製の場合、ウイルスの遺伝子の一部「メッセンジャーRNA」を活用したものだ。

 ワクチン開発には通常、数年はかかるとされるが、世界各国は国の威信をかける形で開発を急いだ。
その結果、欧米企業は長年に渡り積み重ねてきた最新技術を駆使して開発に成功。
中国ではシノファームなどが、毒性をなくしたウイルスを使うという伝統的な製法を活用した「不活化ワクチン」を早々に実用化し、広く世界各国に提供している。
欧米や中国製などのワクチンは既に世界で1億人以上に接種されている。

 これに対し、国内企業の動きは鈍い。
大阪大発のベンチャー企業、アンジェスや塩野義製薬など数社が開発を急いでいるが、実用化のめどはいまだにたっていないという。

 日本がこれほど遅れをとった理由は何なのか。
「ファイザーなど世界の巨大メーカーに比べ、日本のワクチンメーカーは極めて弱小で、太刀打ちできない」とワクチン事情に詳しい東京都内の医療関係者は言う。

 国内のワクチンメーカーは現在、財団法人や研究所、中小の企業がほとんどだ。
米製薬大手が年間6000億〜7000億円の研究開発費を使っているのに対し、規模があまりに小さすぎ、スピードに追いつけないという。

■製薬大手がワクチン開発に消極的になった理由

 そんな弱小メーカーばかりになった背景には「ワクチン開発に対する国の戦略の乏しさがある」と多くの医療関係者は指摘する。

 日本政府は海外製ワクチンの活用には厳しい姿勢を示しながら、国内のワクチンメーカーには補助金を出して守ってきた。
この「護送船団方式」が長く続いた結果、メーカーは世界の市場で戦える開発力や競争力を失い、企業の再編も進まず、規模的にも差がついてしまった。

 また、日本ではワクチン接種による副反応を巡って訴訟が続いたことも響いた。
「一度訴訟となれば、それまでに投じた巨額の開発費がすべて無駄になってしまう。
このため製薬大手がどんどんワクチン開発に消極的になった」と業界事情に詳しい関係者は話す。

 鳥インフルエンザの発生などを機に、日本の脆弱なワクチン産業の問題が鮮明化し、
厚生労働省は2006年、「ワクチン産業ビジョン」を策定し、産業の育成を呼びかけた。
しかし実際にはリーダーシップをとることもなく、今回のコロナ禍を迎えるたといえる。

 業界の中には「ファイザーなど世界大手に日本メーカーが対抗するのはもはや不可能」との悲観論が根強い。
ただ、感染症の世界的流行が今後もあり得るとの見方は強い。
「国産ワクチンの開発体制を強化するため、国ぐるみで立て直しを急ぐしかない」との声も強まっている。
https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20210221-00000005-jct-soci