英国投資会社などの東芝買収提案は、政財官を巻き込む一大買収劇となりそうだ。アクティビスト(物言う株主)との関係に苦心する車谷暢昭社長ら経営陣にとっては渡りに船で、成長戦略に専念できる利点がある。ただ、かつての二枚看板だった原子力と半導体事業の名残が、国の経済安全保障に触れるため問題を複雑にする。2015年の不正会計をきっかけにした経営危機時を彷彿(ほうふつ)とさせる“東芝劇場”の幕開けだ。

「原発事業をやっているのだから、ファンドにポンと買われて福島第一原発の廃炉などから撤退するなんてことがあってはならない」と、東芝関係者は英CVCキャピタル・パートナーズなどの買収提案についてそう語気を強めた。

 東芝は経営再建途上だった18年までに海外の原発建設事業から撤退したものの、国内では原発再稼働に向けた安全対策工事や廃炉、汚染水対策などに引き続き取り組んでいる。また、次世代原子炉開発でも東京電力や中部電力、日立製作所と協力する構想があり、日本のエネルギーインフラの現在と未来において東芝の役割は小さくない。そのため、経済産業省も買収後の原発事業の継続性について重大な関心を持っているようだ。

 過去にも原発をめぐって、政府が外国為替及び外国貿易法(外為法)に基づき株式取得の中止命令を出した事例がある。偶然にも同じ英国の投資ファンドであるザ・チルドレンズ・インベストメント・ファンド(TCI)による08年のJパワー株式買い増しに対して、外為法で初めてストップをかけた。当時のJパワーは大間原子力発電所(青森県大間町)建設計画があり、国の原子力政策や電力安定供給への懸念が背景にあった。

 東芝への買収提案でも国の判断が重要なカギを握る。「買収成立条件として当該事業だけ切り出す手法も、原子力という特性上難しいのではないか」(経産省関係者)と政府の審査は難航が予想される。

 昨今の米中貿易摩擦で脚光を浴びる半導体も買収の成否に関係する。東芝はもともと業界屈指の半導体技術を誇り、世界で初めてNAND型フラッシュメモリーを開発した。15年以降の経営危機を乗り切るため、当時の東芝メモリホールディングス(現キオクシアホールディングス)を18年6月に米ベインキャピタル中心の日米韓企業連合に売却した経緯がある。

 ただ、東芝は依然としてキオクシア株式を約40%保有する大株主だ。政府にとって“虎の子”の半導体技術を海外へ流出させるリスクは看過できないだろう。「CVCの狙いは東芝本体というよりは半導体、特にキオクシアではないか」(事情通)との見方も一部で出ている。

 今回のCVCなどの買収提案は車谷社長への“信任投票”の意味合いが強い。車谷社長は18年に東芝の最高経営責任者(CEO)に就く前に、CVCの日本法人会長を務めていた。東芝の業績はその後着実に回復してきたが、アクティビストからの攻勢はより強まっていた。

 20年7月末の定時株主総会で出された取締役選任案において、車谷社長への賛成比率は全体の57・96%と異例の低さとなった。21年3月の臨時株主総会では、筆頭株主のシンガポール投資ファンドのエフィッシモ・キャピタル・マネージメントの出した株主提案が可決された。

 風向きが徐々に変わっており、21年の定時株主総会に向けてさらなる混乱が予想されていた。当局の承認を受けてCVCなどのTOBが成立して株式非公開化が実現すれば、車谷社長ら経営陣は外野の声に惑わされず成長戦略・資本政策を実行できる環境が整うことになる。

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2021年4月9日