コロナで大阪の集中治療は崩壊寸前、今こそ「災害医療の観点」が必要だ
ダイヤモンドオンライン 4/15(木) 詳しくは記事リンクへ
https://diamond.jp/articles/-/268426

 大阪を中心とする集中治療など重症診療の現場が急増するコロナ患者によって、追い込まれている。まさに、ギリギリの状況である。これ以上事態が悪化すると、新型コロナウイルス感染症以外の病気を含め、重症患者が発生して救急車を呼んでも適切な医療行為を受けられない可能性が出てくる。われわれはどうすべきか。新型コロナウイルス感染症の重症診療をする集中治療医として、また災害医療を学んだ救急医として解説し、提言したい。(名古屋大学大学院医学系研究科救急集中治療医学分野医局長、集中治療専門医、救急科専門医 山本尚範)

● 京阪神の重症診療が コロナで追い込まれている(略)
● 現在の大阪は 「ギリギリの状況」(略)
● これから京阪神で起きる 深刻な事態とは(略)

● 通常医療を組み替え 非常時の体制に切り替える必要がある

(略)

 都道府県の本部が毎朝webで部隊長(院長)を集めて、作戦を決める必要がある。

 災害医療は通常診療と異なり、トリアージや医療資源の集約化が必須だ。場合によっては、急を要しない患者にいったん退院してもらう必要さえ生じる。独特のノウハウがあり、専門家でないと不慣れな面も多い。

 例えば、米国集中治療学会はパンデミックの際に「階層式スタッフモデル」を推奨している。たった1人の集中治療医を頂点にピラミッド式の医療スタッフの仕組みを作ることで、24人もの重症患者を診療できる。

● 災害医療に精通していないと 生まれない発想

 こうした発想は災害医療に精通していないと生まれない。本部機能は単なる搬送調整ではなく、日々の地域医療の喫緊の課題を共有し、解決策を話し合い、具体策を決定することだ。

 幸い京阪神は日本でも最も急性期医療、つまり、救急医療、集中治療、災害医療が盛んな地域だ。日本を代表する医療機関や優れた人材が豊富である。

 コロナ禍における関西の医療関係者の活躍は目覚ましく、関西でなければ医療はもっと混乱していたであろう。行政も大阪府知事や和歌山県知事、神戸市長を筆頭に対応が早い。

 「大阪コロナ重症センター」は日本で唯一の重症コロナ患者の臨時医療施設だ。欧米ではこれが標準で、大阪の災害医療に対するリーダーシップは群を抜いている。その大阪でさえ、さらに一枚岩になって事態に立ち向かわないとこの局面は乗り切れない。

 フランスでは新規感染者が急増し、パリ周辺では予定手術の80%を中止して対応しているという。英国も昨年春と冬に多くの手術を中止した。その意味で吉村知事の発言は正しい。

 最終的にはどれだけ不急の手術を中止し、麻酔科医や外科医、手術室看護師を重症診療に動員できるかにかかっている。コロナ診療には広いスペースが必要だと述べたが、多くの医療従事者がワクチンを接種済みで、新型コロナウイルスの感染予防にも慣れてきたので、もう少し効率的なスペースの使い方も可能だ。

 欧米では手術室を集中治療室として使用することもあった。日本には集中治療室だけでなく、ハイケアユニットなど準集中治療室とも呼ぶべきインフラもあり、重症病床数は増やせる余地がある。

● 鍵は看護師の充足 「災害医療」のノウハウを生かすべき

 鍵は看護師の充足だ。外部から看護師を募集しても即戦力にならない。最前線で働く看護師を、いかに一般診療から重症診療に回せるか。

 「人工呼吸器を扱える医師や看護師は少ない」という反論は分かるが、先に述べた「階層式のスタッフモデル」などノウハウはある。

 繰り返すが、災害医療とはノウハウであり、方法論で、きちっと災害医療の専門家を真ん中に据えて対応する必要がある。「医療が崩壊します!」とメディアが情緒的に伝えて、人々の自粛を促すのは極めて効果的だが、それだけでは足りない。

 働き盛りの人が救急車の中で亡くなるような悲劇を全力で減らす必要がある。広域搬送を含め、災害医療の知見を最大限生かし、都道府県の指揮と医療機関の病院長の合意形成のもと「救える命を救うため」に動くべき時だ。

 政府には自治体への財政・政策両面からの強力な支援をお願いしたい。大阪ではやむなく中等症向けの病院でコロナ重症患者を一部診療している。

 これは院内感染リスク、スペース、設備、スタッフの数、治療経験など全ての面で続かない。高齢者のワクチン接種が普及するまでの3カ月間、関西を助けながら、「明日はわが身」と考え、全国で有事の医療体制作りを加速化させる必要がある。