http://www.zakzak.co.jp/soc/news/210420/pol2104200001-n1.html

東京電力福島第1原発の処理水を海洋放出することが決まったが、
メディアや周辺国などで、反対する論調がいまだに多く見られる。
この問題については、長い間検討されてきた経緯がある。
その結果、昨年2月10日に資源エネルギー庁の小委員会が報告書を公表している。
この種の問題の常として、政府は報告書の内容を各方面で説明するものだ。
その中には、各国の在京大使館関係者も含まれている。
その際、「全体として、批判や抗議などはなかったという報告を受けている」と当時の菅義偉官房長官は記者会見で述べた。

国際原子力機関(IAEA)も同年4月2日、この報告書に対してレビューを公表し、
「科学的・技術的根拠に基づいている」「技術的に実施可能」と評価した。

福島第1原発では、「多核種除去設備」を使い高濃度の放射性物質を含んだ水を浄化しているが、トリチウムが残る。
ただし、もともとトリチウムは自然界に存在し、酸素と結びつき「水」のかたちで大気中の水蒸気や雨水、海水などにも含まれている。
自然界にあるものをかなりの程度希釈しておけば影響は出ない。こうした観点から、定量的な安全基準が決められている。

そうした科学的な話について、感情的に否定しようというのが、中国や韓国、それに国内の一部政治家やメディアなどだ。

そもそも感情的な判断では、定量基準はなく定性的な雰囲気が支配的になる。
豊洲市場の問題でも、小池百合子都知事による「安全より安心」発言が典型だった。
飲料に適さない地下水は「安心」できないと言ったのと同じだったが、
そうなら豊洲に限らず東京の地下水は一切「安心」ではないが、
科学的な「安全」基準を満たしていることで、われわれは安心して生活しているのだ。

海洋放出について抗議した中国の報道官は、中国でもトリチウムを放出していると指摘されると、
日本は福島原発事故があったから違うと気色ばんだという。
これは典型的な感情による判断だ。問題は放射能の量であって、事故があっても量が少なければ安全というのが科学的態度だ。
一部に指摘される風評被害も、こうした感情論に起因している。
感情論では、根拠なしの楽観論か悲観論になりがちで、後者が風評被害を引き起こす。

この種の問題をマスコミ関係者と話すと、科学的知識のなさに驚く。
せめて高校レベルの物理、化学くらいマスターしてほしいものだ。

政府の中でも、スポークスマンとして官房長官がいるが、科学的な内容であれば、
博士号持ちの専門家が説明するなどの工夫があってもいい。
今回のコロナ対応では菅首相の記者会見に政府分科会の尾身茂会長が同席しているが、
政治家の会見に専門家が同席するのも一案だ。 (内閣官房参与・嘉悦大教授、高橋洋一)